Saturday, February 09, 2019

勝手に事業部通信 Vol.9 (2/9/19)

成功は必ずしも約束されていないが、成長は必ず約束されている。
ー アルベルト・ザッケローニ(サッカー監督、1953-)

「そういえば、ブロックチェーンって最近あまり聞かないね。」
日頃からビジネスの現場でお客様と向き合って次世代のITを提案し続けている私たちでさえ、ふとそんな雑感を抱くことはあるのではないでしょうか。
私自身はデジタル部という立場上、ブロックチェーン関連の案件であったり、あるいは案件のタネのようなものに今でも複数携わっていますが、革命的なテクノロジーとしてIT業界全体が一斉に乗り出したブロックチェーンが、リアルなお客様の業務変革へと繋がった事例となると、今もって殆ど思い当たらないという人が大半ではないかと思います。
Cognitive/AIも、残念ながらこれと同じような構造に陥っている印象は否めないのかもしれません。「新たなユースケース、あるんですか」といった呟き声が、どこからか聞こえてきそうです。

でも一方で、エストニアのような事例もあります。
バルト三国の1つで、人口わずか134万人という北欧の小国ですが、世界で最もブロックチェーン・フレンドリーな国家としてその名を轟かせているIT先進国でもあります。

エストニアといえば電子政府(e-Goverment, e-Estonia)が有名で、行政サービスの実に99%が24/365で稼働するオンラインシステムで完結するといいます。
(ちなみにオンラインで処理できない手続きは結婚/離婚/不動産売却の3つのみで、これらに対応していない理由は「人生の一大事を早まってはいけないから」とのこと。人間的ですよね。)
これを可能にする仕組みの1つが国民IDです。すべての国民に11桁のID番号が付与され、このIDをキーとしてあらゆる行政サービス、更には民間サービスも繋がっていくのですが、エストニアでは赤ちゃんが産まれると病院がオンラインシステムで国民登録手続きを申請し、生後10分でその子に紐づくID番号が生成されます。そして、この国民IDをベースにしながら、様々な官民の分散データベースをセキュアに連携させるプラットフォームとして開発された"X-Road"を導入することで、出生に限らず選挙から納税に至るまでのあらゆる手続き、あるいは学校でのテスト記録やあらゆる医療情報の参照、更には民間銀行のオンラインバンキングとの連携まで、この国民IDのみで可能な世界が実現されています。

ここまで来ると、今度は情報セキュリティが気になりますよね。国民IDに紐づけられたあらゆるパーソナルデータは、本当にセキュアに管理されるのかと。ここで登場するのが2007年に設立されたGuardtime社という民間企業が開発した「KSI (Keyless Signature Infrastructure)ブロックチェーン」と呼ばれるテクノロジーです。実はエストニアは、2007年に大規模なサイバーアタックを浴びて多くのサービスが機能不全に陥ったことがあり、これを契機としてKSIが導入されると共に、国家レベルでのブロックチェーン採用の動きが加速していくんです。

エストニアの話は非常に面白くて、詳しくはここ最近読んだ久々のお勧め本『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけたつまらなくない未来』(小島健志 著、孫泰蔵 監修、 ダイヤモンド社)を読んでみてほしいのですが、要するに、「もう未来ではなくなっている場所」も実際に存在するんです。

「ブロックチェーンもAIも、まだどこまで行っても眉唾だ」というのも、1つのポジショニングではあると思います。もっと言ってしまえば、こういう先進テクロノジーに限らずとも、IBMとして実績の裏付けが十分に蓄積されていない最新ソリューションやミドルウェア、最近ではAWSやOpenShift、Containarizationからマイクロサービスに至るまで、先端技術と呼ばれるものの多くが、どこか同じようなコンテクストのもとで、多少斜めに見られることも少なくないですよね。そして、そういう冷静かつリアリスティックな視座というのは、私たちにとって間違いなく必要なものでもあると思います。バズワードに踊るのは、お客様をバスワードで踊らせてしまうことでもありますので。

でも、BAUから解放されてリラックスできる週末の昼下がりなどは、そういうクールな視点を一旦頭の片隅に追いやって、例えばビル・ゲイツのこんな言葉に耳を傾けてみてもいいのかもしれません。
「人類史上の進歩のほとんどは、不可能を受け入れなかった人々によって達成された」

ザックが成長を約束している人間というのは、どういう人だと思いますか。
そう問われることがあれば、私なら迷わずこう答えます。
不可能を受け入れないという選択から目を逸らさなかった人なのかもしれないですね、と。

でも本当は、そこまで大袈裟な話でなくても、新しいチャレンジに向き合って、結果的に成功ばかりではなかったり、トラブルに苦しんだりすることも少なかったりしたとして、そこから目を背けないというだけで、きっと成長は約束されているような気がします。
そして、苦しみの渦中にいる人にとって「成長の約束」だけで心が洗われる訳でもないのかもしれないけれど、それでもきっと未来には繋がっていると思います。