Monday, October 24, 2011

本物のW杯

ラグビーW杯、決勝戦。
それはまさしくW杯の決勝戦にふさわしい最高のゲームだった。

NZのハカに対して、闘志で応えたフランス。あのフランスが全員で手を繋いで立ち向かったことにも驚いたが、何よりも心を打たれたのはその後だ。若き主将デュソトワールを中心かつ先頭に据えて、両翼が引いたあの陣形。全てを一身に受けるキャプテン。「メンバーは皆、お前についていく」と言わんばかりの全幅の信頼。そして次の瞬間、前へと歩み出したデュソトワールの完全なる闘士の表情。全員がオールブラックスに挑みかかるように歩みを進め、一本の線となった後、最後の瞬間にはむしろ両翼が前にそり出して、デュソトワールは扇の要に位置を取る。きっとあの場にいた21人のフランスのメンバーは思っていたはずだ。「前線は俺たちに任せろ」って。

そしてキックオフ。
ウィプーが蹴ったボールが空中戦で弾かれると、後ろにこぼれたボールをコリー・ジェーンが巧みに放して左に展開。その瞬間、フランスのディフェンスラインが今までにない速さで外から鋭く押し上げてくる。その最前線に立って、ウィプーを全身で押し返したのは、他でもない主将デュソトワールだった。
この瞬間、フランスはこの試合で「本物のフランス」を見せると確信した。

フランスにとって、決勝はある意味では戦いやすかっただろう。
予選プールで完敗しているNZを相手に、圧倒的不利という下馬評の中で、アウェイの地で戦うのだから、失うものなど何もない。ブーイングなどに決して揺るがない屈強な自己を備えているのは、準決勝のウェールズ戦が証明している。フランスはやるはずだ。
そこに最高の準備と、最高のリーダーが加わって、フランスは本物になった。

そう、本当に精神的にプレッシャーを受けるのはNZの方だ。
それはもう、キックオフの前から分かっていたことだ。
でも、漆黒の集団にも同じように最高のリーダーがいた。そして、世界最強を宿命づけられた集団は、そのメンタル・タフネスと集中力もやはり最高に素晴らしいものを備えていた。
苦しい時間帯においても、一糸乱れることのないディフェンス。
フランスの執拗かつ速いディフェンスに苦しみながらも、殆どミスすることなく果敢にアタックし続け、その一方では冷静に、的確なキックを織り交ぜてゲームを引き締めたマネジメント。80分間を通してみればテリトリー、ポゼッション共にフランスを下回りながらも、唯一のトライを許したあの場面を除いて、やはりNZは試合巧者だった。
最高の場所で輝きを見せるはずだったクルーデンを欠いても、最後にやや苦しんだ今大会の精神的支柱ウィプーを欠いても、決して崩れない。いや、崩させない。
オールブラックスもまた、本当に強かった。

まさに人間の勝負。
W杯を戦うのは、つまるところ人間なのだと強く感じた大会だった。
終わってしまったのが少々寂しいけれど、本当に良い大会だったなあ。