「困っているひとがいたら、今、即、助けなさい」
ー 森川すいめい『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社)
発端は、1990年9月15日付の朝日新聞(地方版)に掲載された興味深い記事だったそうです。
< 老人の自殺、17年間ゼロ ここが違う徳島・海部町 >
この記事に注目したのが、当時慶應大学大学院修士課程で自殺予防因子の研究をしていた岡檀さん。彼女は実際に海部町を訪れてフィールドワークを行い、海部町の何が違うのか、自分自身の目で調査を始めます。その後、彼女の研究成果は『生き心地の良い町』(講談社)という名著となって世に知られることになり、これに感銘を受けた精神科医の森川すいめいさんが、改めて岡さんの足跡を辿るように海部町へと向かいます。
日本全国の自殺率を市区町村別に見ると、最も自殺率の低い上位10地区のうち、9つは「島」なのだそうです。物理的に海に囲まれた、ある意味では閉じた空間ですよね。
そして、トップ10で唯一の島ではない地域というのが、実は徳島県の海部町なんです。これだけでも、好奇心がくすぐられてたまらない。
森川さんは精神科医として「生きやすさ」ということをずっと考えていたそうです。自殺率の低さがすなわち生きやすさかどうかは分からないけれど、ひとが自殺まで追い込まれない町にはきっと、何かヒントがあるのでは。
こうして始まった学術的にもあまり類例のない自殺希少地域のフィールドワーク。岡さん、森川さんという2人がそこで見たものは、何だったのか。ちょっと興味、沸いてきませんか。
全てをこの場で紹介できないのですが、海部町には興味深い特徴が幾つもあるんです。
例えば、人口の決して多くない小さな町ゆえに、隣近所はほとんど皆が知ったもの同士。噂はすぐに町中に広がります。でも、実は皆が非常に緊密に繋がっているかというとそうではなくて、挨拶程度の間柄が大半なのだそうです。
逆に言えば、誰にでも挨拶はするんです。挨拶程度の緩いつながりが多方面に広がっていて、誰かが何かで困ったときに、どこかには助けてくれる人がいるんです。
海部町の人は、困っている人がいたら、相手がどう思うかを考える前に助けます。大切なのは、自分がどうしたいかなのだと。そして、見返りなど誰も考えていない。「助けっぱなし、助けられっぱなし」なのだそうです。
また、「できることは助ける、できないことは相談する」「困っていることが解決するまでかかわる」という2つの考え方も町中に根付いているといいます。
つまり「それ、私の仕事じゃないんで」という考え方は海部町にはないんですよね。人間関係は「密ではなく疎」なのに、困っているひとは決して放置しないんです。
第2四半期も終わって、週明けから2018年も下半期に突入ですが、ここで一度仕切り直して、組織やチームの形をもう一度考え直してみる時に、海部町には大切なヒントが詰まっているような気が(個人的には)しています。
コミュニケーションのスタイルは人それぞれで、多様な考え方があるのが自然なことなので、一概に正解がある訳ではないのだと思うのですが、例えば、挨拶程度の緩やかなつながりでも、人は孤独感から救われたり、助けられるのだいうことは知っておいても良いのかなと思います。ベタな繋がりじゃなくても、まずは挨拶からでもいいのかもしれないですね。