Saturday, October 26, 2019

RWC 2019 - Semi Finalに向けて、ABsのことを








南アフリカ(SA)との激闘の末、惜しくもQuarter FinalをもってW杯での戦いを終えることとなったジャパン。予選プールの4戦全勝は勿論のこと、先週末のSAとの再戦もやはり素晴らしいものでした。敗れてなお今大会のジャパンの輝きが色褪せることはないと思います。

5週間に渡るジャパンの挑戦が終幕を迎えて、複数の選手が「負けたことよりも、このチームが終わることの悲しさ」が強いと語っていますが、ジャパンの快進撃に歓喜し、その真摯な姿に心打たれてきたファンの胸にも、どこか喪失感があるのは否めません。1人のラグビー人として、今はただ「ありがとう」という思いしかなく、選手・スタッフを含む全ての関係者の皆様には、ゆっくり骨を休めてもらいたいと心から願っています。

とはいえ、RWC 2019はまだ終わっていません。というよりも、RWCにおいて絶対に目が離せない最高級の熱戦、地球最強を決める4つの戦いが残されています。今週末のセミファイナル2試合(NZ-England、SA-Wales)、来週末に行われる3位決定戦、そしてファイナル(決勝)です。ちなみに、ジャパンの躍進によるラグビーへの関心の高まりもあって、セミファイナルは2試合とも地上波での生放送があります。断言しますが、絶対に見逃せません。地球最強を決める戦いが面白くないはずがないからです。

折角なので、今回はやはりいつの時代もラグビーファンの憧れの中心にある存在、ニュージーランド代表オールブラックス(ABs)について、2つだけ見所をお伝えします。いつも通り、私の独断と偏見を織り交ぜながらで。

まずは、ハカのことを。
ABsといえば、やはり有名なのはハカですよね。国歌斉唱後、キックオフ前に行われるパフォーマンスで、元々はマオリ族の戦士たちによる伝統的な舞踏です。

誰もが一度は目にしたことがあるとは思いますが、実はABsのハカには2種類あるのをご存知ですか。「カマテ(Ka Mate)」「カパオパンゴ(Kapa O Pango)」です。一般的にはカマテが有名ですよね。

カパオパンゴは2005年に新たに作られたのですが、それ以前のABsでは、ハカの意義が見失われかけた時期がありました。ハカ自体が形式化していき、なぜハカを踊るのか、選手達の中から疑問の声が出たことがあったそうです。

でも、彼らはもう一度1つ(One Team)になるために、ハカを再構築するんです。ルーツを遡り、今の時代においてハカが継承されることの意義を再発見するプロセスを経て、新たに生まれたのがカパオパンゴです。

あれは決して単なるショーマンシップではありません。ABsの伝統と誇りを背負って戦うという魂の叫びです。彼らはハカの練習もしますし、ハカ自体の完成度はチームの完成度の"part of it"となっています。リードするのはSHのTJ.ペレナラ。明日はどちらで来るかは分かりませんが、ハカが始まったら、TV画面の前でまず一度唸ってください。「カマテで来たかぁ」とか、「ここでカパオパンゴを持ってきたかぁ」とか。楽しいですよ。

これから日本との縁を築いていく猛者たちに、声援を ー
実は、明日のABsのメンバーの中には、今回のW杯をもってNZ代表を引退して、そのまま日本でプレーする予定の選手が複数存在します。主将を務めるNo.8のキアラン・リード(トヨタ自動車)、世界最高のロックとも言われるブロディ・レタリック(神戸製鋼)、そしてサム・ホワイトロック(パナソニック)です。更には、明日のメンバーには入っていませんがCTBのライアン・クロッティもクボタへの入団が決まっています。明日のリザーブにいる"SBW"ことソニー・ビル・ウィリアムスは過去にパナソニックでのプレー経験がありますね。この辺りのメンバーの活躍ぶりにも、是非注目してみてください。いずれも紛れもないスーパースターです。心躍るようなパフォーマンスできっと魅せてくれます。

もう後は、ただ見るだけで十分です。理屈は一切不要です。ラグビーのことを何も知らなかったとしても絶対に後悔しない80分間が、今日、そして明日と続きますので。

Saturday, October 19, 2019

Beat the Boks Again - 日本vs南アフリカ 私的プレビュー








10月20日。ジャパンはこれまでに経験したことのない「未踏の地」に挑むことになります。
RWCベスト8、Quarter Finalという極限の闘争にー。

ラグビーの神様は、3年前のその日からずっと、日本ラグビーを見守ってくれていたのかもしれません。奇しくもこの日は、日本ラグビー史が誇る天才としてその名を馳せた平尾誠二さんの命日です。日本中を巻き込んだ信じられないほどのファンの熱狂と声援がジャパンを支えているように、天に護られているかのような奇跡の日程が醸し出す「場のオーラ」もきっと、ジャパンを支えてくれるはずです。

Quarter Finalとは ー
RWCは間違いなく世界で最もエキサイティングなスポーツの祭典であり、予選プールから全ての試合が見る者の心を震わせる熱戦です。このことは、既に今大会のジャパンが見事に証明してきました。でも、激闘の予選プールを勝ち抜いたトップ8による決勝トーナメントは、もはや別次元です。

全てのチームがウェブ・エリス・カップ(Webb Ellis Cup)を照準に見据えています。初の決勝トーナメント進出となるジャパンも例外ではありません。残された死闘は、最大でも3つです。ABsやジャパンが戦う南アフリカ(SA)のような強豪国は、約1ヶ月半という大会期間の中で、最後に王者の座を射止めるためのピーキングをしていきます。チームというのはレベルを問わず生き物なので、明確な照準を定めた上で、モメンタムを見極めながら作り上げていくものなんです。つまり、例えば"Completely-built ABs"は、これから登場してくるということです。当然ながら、SAも同様です。

また、ここから先は一度でも負ければRWCの舞台を去ることになるノックダウン方式です。もう調整も試行もない。明日分析されようとも、今、勝ち切るために全力を賭すことになります。世界のトップ8が死力を尽くす総力戦です。面白くない訳がありません。

平尾さんが描いたビジョン。ジェイミーが確立したジャパン。
同志社大での大学ラグビー3連覇、神戸製鋼での社会人ラグビー7連覇と、日本ラグビーにおける伝説的な偉業の中心にはいつも平尾さんがいました。プレーヤーとしての華々しい実績は、これまでラグビーに触れる機会がなかった多くの方もご存知かと思います。加えて、平尾さんには指導者としての顔もありました。22年前の1997年、ジャパンの監督に就任。指揮官として第4回RWC(1999)を戦っています。

平尾さんが思い描いていたであろうジャパン・ラグビーのグランド・デザインを語るのは、私にはあまりに荷が重く、十分な知見も言葉も持ち合わせていませんが、おそらく平尾さんは20年前に、"20 years later"のビジョンを持っていたのだと思います。当時、アンドリュー・マコーミックをジャパン初の外国人キャプテンに任命し、ABsでのプレー経験を有する強力な外国人プレーヤーを主軸に据えながら、彼らの豊富な経験と実績をジャパンに融合させることを志向されたのが平尾さんでした。

あの頃の構想の本質は、単なる「補強」でも、日本人で埋められないピースの「補完」でもなく、確かに「融合」だったのだと思います。現役時代から極めて高いスキルと判断能力、そして状況への柔軟な対応力を武器に「オンリーワンの存在」として活躍された平尾さんはきっと、当時の外国人選手たちのfoundationalな部分、すなわちラグビーに対する理解力や反応力、チームの原理・原則の中でも自らの意志で柔軟に判断するマインドセット、あるいはより深層にあるカルチャーまで踏み込んで、それらをジャパンとして包摂し、ジャパンに融合させようと試みた。

結果的に、1999年のW杯におけるジャパンの戦績は4戦全敗で、大会終了後に平尾さんは監督を退任されるのですが、ある意味では当時は日本ラグビーの土壌、つまり「ベースライン」が平尾さんのコンセプトに追いついていなかったのかもしれません。

あれから20年。今、ジェイミー率いるジャパンは、あの頃のビジョンを1つの具体的な形として昇華させ、乗り越えていこうとしています。本大会のジャパンの強みも、まさしく「融合」にあるからです。

SAとジャパン。2つのチームの異なる志向性 ー
さて、SAとの因縁の再戦。肝心のポイントを考える上で、両チームの志向性の違いをイメージすると、ゲームの綾が分かりやすくなるかもしれません。

SAは伝統的に"focus"のチームです。言葉を変えると、明確な強みを持っている。端的に言えば、圧力ですね。彼らが真骨頂を発揮した時のブレイクダウンの圧力は、間違いなく世界No.1です。サイズに優れたパワフルなFWを、シンプルに勝負させてくる。もちろんABsと並ぶ世界トップレベルの強豪国なので、戦略・戦術も決して単純ではなく、幅広いスキルを武器に極めて高度なラグビーを構築できるチームですが、いつの時代にあってもSAの原点は明確なんです。圧力。この一言に尽きます。彼らがスタジアムを支配する時とは、彼らの圧力が全てを凌駕する時です。裏返せば、世界最高レベルの圧力を跳ね返すことが、ジャパン勝利への最低条件になってきます。

対照的に、今大会のジャパンは"unfocus"で勝ち上がってきたチームです。つまり、相手に的を絞らせない。パス主体の高速展開もあれば、キックを効果的に使ったエリアマネジメントと決定的チャンスの創出もハマっている。スクラムに代表されるFWの肉弾戦も、間違いなく世界トップの結束力と細部まで徹底的にこだわり抜いたコンビネーションで真っ向勝負。こうした全てがシナジーを生み出して、戦略の幅を作り出すことに成功しています。シナジーとはつまり「融合」なんですよね。だからこそ、この日を平尾さんの命日に迎えるということが、より運命的なものとして私には感じられるんです。

大一番に向けて、スターターを変えてきた勇気と、山中の使命 ー
予選プール4連勝で、これ以上ないモメンタムを作り上げた今のジャパンを考えると、メンバーの入替はどうしても躊躇するもので、日本中が注目する世紀の一戦となれば尚更でしょう。そんな中でHCのジェイミーは、先週のスコットランド戦から1人だけスターターを入れ替えてきました。ウィリアム・トゥポウに代わってFBとして起用された山中亮平です。想像ですが、これはジェイミーにとっても極めて難しい判断だったのかなと思います。

山中の強みは幾つもありますが、特に重要なのは左から繰り出すロングキックです。これは、現ジャパン31人の中でも、山中を輝かせるオンリーワンの強みになっています。
SAの"focus"に対しては真っ向勝負。ジャパンは決して逃げない。とはいえ、あの圧力を80分間にわたって撃ち返すのは並大抵のことではありません。そう考えた時に、特に左のロングキックは貴重な命綱となる可能性を秘めています。何故ならば、後ろへのパスしか許されないラグビーという競技において、相手とのフィジカル・コンタクトを回避しながら前にボールを運べる唯一の手段がキックだからです。日曜日のゲームにおいて、山中のファーストタッチ(その試合で最初にボールに触れる瞬間)、そしてファーストキックの軌道は、目が離せない注目ポイントです。左足から長いキックが綺麗な弧を描いて放たれた時、ジャパンは最高の武器を1つ確立することになります。


今回は殊更長くなってしまいましたが、SAとの決戦に向けて、見所はもう本当に尽きることがありません。ジャパンとして母国と戦う南アフリカ人、ラピースことピーター・ラブスカフニのことも、桐蔭学園を卒業後、単身南アフリカに渡ってラグビーの武者修行を生き抜いた松島幸太朗のことも、パワフルな猛者たちの中にあって、圧倒的なスピードとキレで世界の注目を集める小さなWTB、チェスリン・コルビと福岡堅樹との直接対決のことも、書きたいことが次々と脳裏に浮かんでくるのですが、これ以上書き連ねていると、試合が始まる前に力尽きてしまいそうなので・・・。

あとは、とにかく全力で応援するだけですね。
もう奇跡と呼ばせない勝利を信じて。

Monday, October 14, 2019

"One Team"の勝利 - ジャパン、スコットランド撃破








素晴らしいゲームだった。
想像通りの死闘を勝ち切ったのは、これも想像していた通り、ジャパンだった。

RWC 2019 予選Aプール最終戦
Japan 28-21 Scotland (19:45 K.O. @横浜スタジアム)

何よりも最初に、超大型の台風19号が列島を襲った直後にも関わらず、この一戦を最高の形で迎えるためにあらゆる尽力をいただいた全ての関係者の皆様に感謝したい。スタジアムのコンディションもさることながら、全ての関係者およびスタジアムに駆けつける全てのファンの安全に最大限の配慮を行い、周辺環境や交通機関の状態把握に努めながらこの試合の開催に漕ぎ着けるのは、想像される以上に大変なことだったと思う。ジャパンが掲げる"One Team"を体現するのは、ジャパンだけじゃない。そのことを見事に証明した運営サイドの組織力も、今回のRWCの素晴らしさを象徴するものとして称賛されるべきだろう。

一夜明けた今、ジャパンへの称賛と感動のメッセージが日本中に溢れているのをはっきりと感じる。ホーム開催のW杯の舞台で、あの2015年の因縁の相手であるスコットランドを撃破。世界ランキング2位(当時)のアイルランドを相手に掴み取った魂の勝利も含めて、予選リーグ4戦全勝での1位通過を勝ち取った今回のジャパンの戦いぶりは、本当に素晴らしいものだった。昨夜のゲームにおいても、もう多くの方が口を揃える通り、真っ向勝負でスコットランドを倒し切ったという感じだ。福岡・松島の両WTBは完全にワールドクラスの決定力で、80分を通じてある種の支配力を発揮していた。リーチや堀江、そして姫野の獅子奮迅の活躍。一切の厭いなく身体を張り続けるトンプソンとムーアの両LO。流と田中の2人のSHでゲームテンポとマネジメントを掌握する展開も、この日は特にハマっていた。スクラムを支えたフロントローも、ジャパンの攻撃の全ての起点となりグラウンドに彩りを与えた田村・中村・ラファエレのトップ3も、最後尾から力強いランで沸かせたトゥポウも、更には全てのリザーブメンバーも含めて、まさに全員がベスト・パフォーマンスを存分に示してくれた。ラグビーを愛するファンの1人として、もう「本当にありがとう」の思いしかない。

とにかく感動の瞬間は尽きないのだけれど、個人的に特に心を打たれたことを書き残してみたい。"One Team"の想いを胸に戦うというのが、どういうことなのか、ということについて。

試合開始前。グラウンドでの最後のアップを済ませた選手たちが、ジャージを替えるために一旦ロッカールームに引き揚げる。その瞬間、ジャパンは主将のリーチを先頭に、前を歩く仲間の肩に手を添える陣形を取り、まさに"One Team"の行軍を見せた。ジェイミーの考案なのだろうか。詳細は分からないけれど、明らかに準備していたのだろう。通常のゲームでは芝居がかってしまう部分も否めず、なかなかここまで出来ないものだ。でも、こういう特別な一戦のために、こういう特別な準備が必要なのだということを、ジェイミー率いるジャパンは熟知していたのだと思う。あの時のリーチの表情は、既に内なる「鬼の決意」が溢れ出たような強いものだった。

前半20分、自陣右サイドのスクラム。その前のプレーでおそらく肋骨を負傷していた右PRの具智元が交替を余儀なくされる。プランよりもかなり早い時間帯にピッチに立つことになったのは、ヴァルアサエリ愛。その表情が印象的だった。一切の気負いもプレッシャーもなく、いつでも行ける準備が出来ていること、そしてこの交替が単なるプロップの入替ではなく、具智元の想いを引き継ぐものだというのを完全に理解しているのが、はっきりと感じられたからだ。そしてあの瞬間、おそらくチーム全員がこのスクラムの重要性を強烈に意識していたはずだ。画面越しにも、FW全体の結束とオーラが伝わってきた。たぶん全員が思っていたんじゃないか。「具智元をQuarter Finalに連れて行く」と。この運命のスクラムの結果は、スコットランドのPK。ジャパンのFWが見事に組み勝った。俺は個人的に、このゲームの"Best Moment”はこの瞬間だったと思っている。もう一点、レフリーの笛が鳴った直後、スクラムの最後尾に位置するNo.8の姫野が両腕を振り上げて歓喜の雄叫びを上げたのも、胸に響くものがあった。あのシーンに、フロント陣へのあくなき信頼と、そして「スクラムはフロントローだけのものじゃない」という決意の両方が浮かび上がっていたと思うからだ。

後半も中盤に差し掛かった頃。苦しい時間帯の中、ブレイクダウンで足元に絡みついていった田村優に対して、スコットランドの若きフランカー、ジェイミー・リッチーが喰ってかかる場面があった。その瞬間、姫野が2人の間に割って入るのだが、その形相が本当に凄かった。ラグビーは紳士のスポーツと呼ばれるが、荒ぶるスポーツでもある。グラウンド上で一触即発の諍いが起きるのは珍しいことじゃない。俺が心を打たれたのは、明らかに仲間を守ろうという決然たる意志を姫野の表情に感じ取ったからだ。俺自身は高校・大学と比較的大人しいチームで育ってきて、あまりこの手の経験はなかったのだけれど、社会人に行ってからちょっと物事の見方を変えるようになった。勿論、乱闘を是とする訳ではなく、ラグビーにおいては熱さと冷静さのバランスを常に保たなければいけないのだけれど、理屈の前に仲間は守るべきだ。チームで戦うというのは、そういうことだ。単なる野蛮ではない。あのシーンのRootにあったのは間違いなく「仲間のために身体を張るメンタリティ」なのだということを、今大会を通じてラグビーの魅力に触れることになった多くの方々に知ってもらえればと思う。

そして最後に、ノーサイドを迎えた後の横浜スタジアム。そこには布巻がいた。地上波で観戦されていた方は分からなかったと思うが、JSports2の解説として放送席にいた布巻は、ジャパンが歴史を変えるノーサイドの笛が鳴り響いた後、放送席を飛び出してピッチに降りていった。ジャパンで活躍するためにフランカーに転向し、今回のW杯のためにずっと自己研鑽を続けながら、本大会メンバー31人の最終選考で惜しくも涙を呑むことになった布巻が、ピッチ上のメンバーと勝利を称え合う姿は、本当に感動的だった。JSportsでは、試合後にメンバー全員で集合写真を撮るシーンも中継されていて、その中央にはスーツ姿の布巻があった。笑顔だったけれど、目は潤んでいたと思う。前回大会の廣瀬ほど取り上げられることもなく、ある意味では静かに代表合宿を離れるしかなかった布巻がチームに囲まれるのを見て、これが本当のOne Teamなのだと思わずにはいられなかった。

俺は思う。ジャパンの素晴らしさは、"One Team"を完遂したことだと。
チームコンセプトやスローガンを掲げてシーズンに臨むラグビーチームは少なくないが、言葉を「本物」に出来るチームは極めて少ない。掲げた言葉を自らのものとして胸に刻み、日々その言葉を生きる。そういう時間をチーム全員で積み重ねていくことでしか、チームコンセプトを本物に昇華させることなど叶わない。結局のところ、ジャパンの全メンバー、そして全ての関係者が、4年間にわたってそういう濃密な時間を捧げてきたのだと思う。ジャパンが感動を誘うのは、プレーの端々に、そして本当に小さな所作だったりインタビューでの一言一句の中に、積み重ねてきた時間と汗の重さがはっきりと感じられるからだ。

次は念願のQuarter Final。相手がスプリングボクスというのも申し分ない。
"One Team"として過ごす美しくも有限の時間に、ただ全身全霊を注いで没頭してほしい。

Saturday, October 12, 2019

RWC 2019 日本vsスコットランド - 私的プレビュー








2019.10.13。日本ラグビーの歴史を変える戦いは、いよいよ明日です。
前回の2015年W杯で南アフリカを撃破した「ブライトンの奇跡」の中で、ゲーム終了間際に得たPKでスクラムを選択した有名なシーンにおいて、「歴史変えるの誰?」という永遠に語り継がれるであろう名言でFWを鼓舞したのはトンプソン・ルークですが、あの日こじ開けたのが歴史の扉だとするならば、今回は扉の先を本当の意味で「ジャパンの場所」にするための戦いです。それが決して簡単なチャレンジではないことは、今大会をここまで3連勝で勝ち進んでいる今も変わりません。HCのジェイミーも、ジャパンの選手たちも、メディアに表れるコメント以上にその感覚を持っているでしょう。

ファンにできることは、ジャパンの誇りを信じること。ジャパンが最高のパフォーマンスを魅せられるように、声援を届けることに尽きるかなと思います。

まず何より、台風のことを。
日本列島に迫り来る大型の台風19号の影響は、既にW杯に及んでいます。
既に報道されているように、明日10/12(土)に開催予定だったNZvsイタリア、イングランドvsフランスの2試合について、World Rugbyおよび組織委員会は、RWC史上初の中止を決定しました。本大会の開幕前に事前に定められていた規定に基づき、予選プールの試合は延期による日程再調整とせず、0−0の引き分け扱いで双方に勝ち点2を与える形式のため、例えばイタリアは世界最強軍団であるABsに挑むことなく予選敗退となりました。

この決定に関しては、メディア上でも様々な意見が錯綜しています。当事者であるイタリアの胸中に行き場のない無念が残るのは、仕方のないことだと思います。ちなみに、現時点で、日本vsスコットランドも含めて、13日(日)のゲームは開催予定で計画されていますが、仮にスコットランド戦が中止になると、ジャパンは勝ち点16で予選プール1位通過(初の決勝トーナメント進出)が確定します。

ただ、そのような結末を誰1人として望んでいないことは、この場に書き留めておきたいです。本当に大切なものに触れるためには、このblogを読むだけで十分です。

ジャパン8強への条件を、違う視点から ー
今回のスコットランド戦は、ジャパンが予選プールを突破するための最終関門ですが、命運を定めるのは単純な勝敗のみでなく「勝ち点」です。この点も既に多くのメディアが取り上げているので、ご存知の方が少なくないと思います。ただ、殆どの記事はジャパン視点で書かれていますよね。でも、本当に大切なのはこれを「スコットランド視点」で捉えることです。

スコットランドは、現在勝ち点10。勝ち点14のジャパンを上回るためには、ジャパンに勝ち点を与えずに勝利するか、もしくは勝ち点1(4トライ獲得または7点差以内の敗戦)を与えても、自分たちが4トライ以上で勝利することが条件になります。つまり、彼らが目指すのは単に勝利することではなく、「極力ジャパンにスコアさせずに勝利すること」なんです。こうして相手の視点に立って考えると、想定されるゲームプランがなんとなく浮かび上がってきます。

で、肝心のスコットランド戦のポイントは ー
ジャパンの過去3試合を振り返ってみると、合計9つのトライを挙げています。そのうち、松島が4つ、福岡が2つと両WTBで6つを稼いでいるのが分かります。これはジャパンがずっと目指してきた理想形で、世界トップレベルの高速展開ラグビーで相手を撹乱し、外側に生まれたスペースにジャパンが誇る2人のスピードランナーを走らせる。彼らはスペースがあれば、ワールドクラスの相手でも取り切りますからね。言葉にするのは簡単ですが、RWCの舞台で完遂するのは極めて難しい戦略を、ジャパンはここまで見事に展開してきています。

となれば、スコットランドは当然この2人を警戒してくるでしょう。では、スピードランナーを止めるにはどうするか。最もオーソドックスなのは、そもそも走らせないことなんです。例えば、松島や福岡の位置を狙ってハイボールを蹴り込む。彼らがキャッチした瞬間にディフェンダーがタックルできるような間合いでキックを落とせば、加速を許さずに潰せますよね。そして、タックルの集中砲火で精神的プレッシャーをかけることも可能になります。「ティア1」と呼ばれる世界の強豪国は、こういう「絶対にすべきプレー」を80分に渡って高い精度で徹底できるからこそ、ティア1に君臨しているんです。

もう1つが、パワープレイ。台風によるグラウンドコンディションへの影響によっても変わってきますが、一般的に「重馬場」の戦いではパワープレイが増えます。雨などでボールが濡れているとハンドリングエラーが起きやすく、またグラウンドがぬかるんでいるとランニングスピードを上げづらいので、パス数を減らして、力強いランナーをシンプルに使う戦術に振れやすいというのもありますが、特に最近のラグビーでは「ターンオーバー」と呼ばれる攻守の切り替わりがスコアの起点になることが多いんです。つまり、ジャパンのスコアチャンスを抑え込むために、スコットランドとしてはミスを減らしたい。

この2つが、日曜日のゲームを見る上で念頭に置いておきたいポイントです。裏返すと、ジャパン勝利への道筋と必須要件も浮かび上がってきます。

まずはハイボールを確実に確保して、相手に不用意なチャンスを与えないことです。松島も福岡も、身長は決して高くないですが、ハイボール処理は決して弱くありません。ただ、相手はスコットランドだというのを忘れてはいけない。ちなみに、ジャパンの通算戦績は1勝11敗です。侮れる相手ではありません。

もう1つは、パワーにパワーできちんと対抗することです。相手の強みから逃げてはいけない。相手の強みを消す戦略・戦術というのも当然ありますが、スコットランドに対してはもう真っ向勝負です。パワープレイというのは、スコアまでに時間を要するという難点があります。極論してしまうと、仮に50mを独走できれば30秒でもスコアできるけれど、相手を2m吹っ飛ばして、大男たちが結集して相手を3m押し込んだとしても、スコアまでの射程距離には届かない。つまり、相手のパワーをきちんと受け止めて、弾き返すというタイトな戦いを継続できれば、スコットランドはいずれ、ジャパン以外に「もう1つの敵」とも戦わなければいけなくなるんです。そう、「時間」という敵と。

いつだって聞きたい。このゲームの注目選手は ー
間違いなくウィリアム・トゥポウです。開幕戦のロシア戦を終えた後、アイルランド戦の直前に肉離れを起こして戦線離脱していましたが、この大舞台に戻ってきました。福岡や松島をチームの最後尾から助けてあげられるのは、トゥポウしかいません。指揮官に託されたミッションも、シンプルにはこの点に集約されるでしょう。タックル。キック処理。当たり前のことを、当たり前にやり切るということに。

一般的に、チームが良いモメンタムにある時に、メンバーを入れ替えるのは勇気を伴います。「シズオカの衝撃(Shock in Shizuoka)」を経て、サモアもBPを奪って撃破してきた中で、ここまでスターターだった山中から切り替えるのは難しいチョイスだったはず。つまり、それだけジェイミーはトゥポウを信頼しているということです。

トゥポウは、そのことを間違いなく理解していると思います。今回のジェイミーの決断ほど彼を奮い立たせるものはないでしょう。おそらく、人生において一度でもあれば幸せだというほどに、心を震わせていると思います。そういう瞬間を生きる誇り高きアスリートの姿から、目を離すことなどできません。


本当に、もう待ち切れないですね。

Friday, October 04, 2019

RWC 2019 日本vsサモア - 私的プレビュー








相手より5歩余計に走れば、その5歩が既に勝利への5歩だ。
ー イビチャ・オシム(サッカー指導者、1941- )


そっと胸に手を当てて、自らの心に問いかける。
明日に迫った闘いを前に、その先に待つ最終節、つまりスコットランド戦へと繋がっていく一連の「流れ」の1つとして明日を見据える気持ちが、心の片隅に、ほんの一片もないと言い切れるだろうか。
その思いは、今すぐに捨て去った方がいい。わずかばかりの心の隙さえも許さず、極論すれば相手のことさえ意識の中心から周辺へとシフトさせ、ただ自分たちのすべきラグビーに徹底的にフォーカスする。

明日のサモア戦は、そういうゲームです。というよりも、そう戦わなければいけない。
W杯に楽なゲームなど1つもなく、小さな心の隙を見逃してくれるほど、誇り高きサモアン・フィフティーンは甘くありません。

サモア代表は今、何を思うのか ー
本日現在、World Rankingでは15位と、ジャパン(過去最高の8位)の後塵を拝しているサモア。本大会では現時点で1勝1敗(勝ち点5)と、予選Aプールではスコットランドと並んで3番手の位置にあります。前節のスコットランド戦では0-34と完敗を喫しており、加えてこれまでの2試合での危険なプレーによって、主力2人が出場停止という苦しい状況です。私もスコットランド戦をTVで観戦しましたが、端的に言えば「サモアが崩れた」ゲームだったと言っていいでしょう。
つまり、サモアは今、チームビルディングの観点でいえば再構築(Rebuild)の過程にあります。ジャパンが洗練(Refine)の局面にいるのとは対照的です。

その彼らは今、何を考えているのか。もちろん真実は彼らのみぞ知るところですが、想像することも、想定することもできます。間違いなく、プライドを徹底的に燃え上がらせているはずです。サモア代表はW杯でも過去に2度ベスト8(Quarter Final)に進出した経験があります。ジャパンとの通算成績は、ジャパンの4勝11敗。その彼らが、Rootの部分でジャパンに「勝てない」と思うはずがありません。

私はいつもラグビーの見どころの1つとして「後半20分の表情」を挙げていますが、明日はまずグラウンドに立った瞬間のサモアの男たちを見てください。そして国歌斉唱の後には、サモアが誇るウォークライ「シヴァ・タウ」が続きます。燃えたぎるサモア、その本質を垣間見ることができるはずです。

2人の注目プレーヤーのことを。
サモアには日本でもお馴染みのスーパースターが2人います。1人は15番を背負うティム・ナナイウィリアムズ。もう1人は、明日はリザーブに廻ったSOのトゥシ・ピシです。
この2人は日本のトップリーグでプレーした経験もあり、日本ラグビーを非常によく知っています。ピシは7シーズン(2010-2016)に渡って強豪サントリーを牽引した英雄で、日本国内でも非常に高い人気を誇る選手です。ナナイウィリアムズは、間違いなく明日のキープレーヤーになるでしょう。完封を喫したとはいえ、スコットランド戦でも気迫溢れるランは健在。豊富な経験に導かれた判断力とキレの良いステップワークは注目です。

肉弾戦の破壊力が魅力のサモア・ラグビーに、ちょっと違った角度から彩りを与えるフィールドのアーティスト達を、ジャパンがどう封じ込めるのか。この辺りも明日のゲームを占う重要なポイントです。

ジャパンがすべきこと。そして肝心の明日の見どころは ー
サモアは決して弱くありません。これだけは断言できます。そして、そのサモアに対峙するジャパンが明日すべきことは、実は極めてシンプルです。端的に言ってしまうと、サモアの心を折ることです。

前回の2015年W杯において、3勝しながら予選プール敗退となった苦い記憶もあり、「シズオカの衝撃 (Shock in Shizuoka) 」として世界に衝撃を与えたアイルランド戦以降、少なくない識者・評論家がボーナスポイント(BP)を取れるかどうかを、明日のポイントとして挙げています。既に多くのメディアが取り上げているので、ご存知の方も多いと思いますが、ラグビーW杯では4トライ以上を奪うと勝敗に関わらず1点のBPが与えられます。勝利すれば4ポイントなので、4トライ以上の勝利で最大5ポイントですね。

明日のサモア戦で5ポイントを獲得すれば、ジャパンは最終節のスコットランド戦に向けて非常に大きなアドバンテージを勝ち取ることになるのは、紛れもない事実です。でも、ヘッドコーチ(HC)のジェイミーは、BPについて一切言及していません。そして私は、それが当然のスタンスだと考えています。極論すれば、サモアの心を折るラグビーを貫いたならば、3-0でも最高の勝利となるのが明日のゲームです。

それならば、どうやってサモアの心を折るか。これもシンプルです。荒ぶるサモアの猛者たちの突進をきちんと制圧して、前に行かせないことから全ては始まります。なぜならば、前進こそが人間のエナジーの根源だからです。

サモアは強い。スピードを持った巨漢が、魂を乗せてクラッシュしてきます。特に前半の40分間は、ジャパンの戦略やパフォーマンスを問わず、基本的にはこの展開が繰り返されると思います。でも、40分間を通してジャパンの15人が鎖となって彼らの突進を撃ち返し、前進を許さなかったとすれば ー。

その時、ジャパンはもう豊田スタジアムの空気を支配しているはずです。
前半終了のホイッスルが鳴って、ロッカーへと戻っていく時のサモアの選手たちの姿に「小さな絶望」を、いやそこまで行かなくても「小さな閉塞感」を感じ取ることができたとすれば、ジャパンはBPの有無などでは測れないほどの絶対的なアドバンテージを勝ち取ることになります。

W杯というのは、いつだって「人間の戦い」なんです。

Wednesday, October 02, 2019

『国境を越えたスクラム』



今回のW杯に合わせて、ラグビー関連書籍が空前の出版ラッシュに沸いている。私は大型書店に足を運ぶと必ずスポーツ棚をチェックするのだが、ラグビーの新刊が続々と増えていくのを目にする度にいつも嬉しい気持ちになり、そして何かしら買って帰っている。本格的なノンフィクションに限らず、いわゆる入門書の類もチェックは怠らない。自分では知っているつもりのことでも、簡潔に整理されたものを読んでいるうちに、ふとした気づきが生まれることもあるものだ。

そんな訳で、とにかくラグビー本はここ最近で急増しているのだけれど、その中でも特に素晴らしいのが本書だ。HONZでも取り上げられるとは思っていなかったが、それだけの価値は十分にあると断言できる。本書を手に取る理由が目下のW杯に乗じた話題性だったとしても、読後感として残るものは間違いなく、「単なるW杯ブームの彩りの1つ」というレベルを超越したものになっているはずだ。

本書で紹介されている多くのエピソードは、長らく日本ラグビーを応援してきたファンでさえも知らないものが少なくないだろう。まさに今、W杯を戦っているジャパンにおいても外国出身選手の存在は非常に大きいが、ここに至るまでには歴史の蓄積があり、野茂や中田英寿ではないかもしれないけれど、同じように「日本という未踏の地」を切り開いてきた先人の存在がある。本書でも冒頭に登場するノフォムリラトゥは今でも語り継がれる伝説的な存在だが、彼らはただ自身の未来のためだけに戦っていた訳ではなかった。パイオニアとしてのプライドと誇りを胸に日本で戦い、そしていつしか彼らの誇りは、「日本代表としての誇り」へと昇華していった。

俺が最も感銘を受けたのはホラニ龍コリニアシの物語だ。コリーの愛称で親しまれたパワフルなNo.8。彼が日本への帰化を決断した際、高校生で初めて日本に留学してきた頃からお世話になっていたある方のもとを訪れて、帰化することを伝えると共に、「龍」の一字を受けることになる。コリーが何を思い、何を背負ってきたのか。詳しくは本書を読んでもらいたいが、電車の中では到底読めないエピソードだ。

ラグビーの大きな魅力の1つが多様性にあるのは疑う余地もない。
ただ、例えば日本ラグビーを、そして今のジャパンを支える外国出身選手たちは、おそらく「多様性のために」ラグビーをしている訳ではないはずだ。日本という地で必死にラグビーに挑んできた結果が認められ、ジャパンに選出された時、そこには多様性があったというだけで。

どこの生まれだろうと、国籍や育ってきた環境がどうであろうと、同じ時代、同じ場所でラグビーに本気になった仲間がいた。ラグビーを通じて、人として繋がった。打算などでは到底越えられない壁がきっとあり、でも仲間の信頼と自分自身へのプライドが、いつだって彼らを奮い立たせた。きっと、ライブではそんな感覚だったんじゃないかと思う。いや、俺としてはそう確信している。

何故ならば、俺がラグビーを続ける理由も同じだからだ。