Monday, October 14, 2019

"One Team"の勝利 - ジャパン、スコットランド撃破








素晴らしいゲームだった。
想像通りの死闘を勝ち切ったのは、これも想像していた通り、ジャパンだった。

RWC 2019 予選Aプール最終戦
Japan 28-21 Scotland (19:45 K.O. @横浜スタジアム)

何よりも最初に、超大型の台風19号が列島を襲った直後にも関わらず、この一戦を最高の形で迎えるためにあらゆる尽力をいただいた全ての関係者の皆様に感謝したい。スタジアムのコンディションもさることながら、全ての関係者およびスタジアムに駆けつける全てのファンの安全に最大限の配慮を行い、周辺環境や交通機関の状態把握に努めながらこの試合の開催に漕ぎ着けるのは、想像される以上に大変なことだったと思う。ジャパンが掲げる"One Team"を体現するのは、ジャパンだけじゃない。そのことを見事に証明した運営サイドの組織力も、今回のRWCの素晴らしさを象徴するものとして称賛されるべきだろう。

一夜明けた今、ジャパンへの称賛と感動のメッセージが日本中に溢れているのをはっきりと感じる。ホーム開催のW杯の舞台で、あの2015年の因縁の相手であるスコットランドを撃破。世界ランキング2位(当時)のアイルランドを相手に掴み取った魂の勝利も含めて、予選リーグ4戦全勝での1位通過を勝ち取った今回のジャパンの戦いぶりは、本当に素晴らしいものだった。昨夜のゲームにおいても、もう多くの方が口を揃える通り、真っ向勝負でスコットランドを倒し切ったという感じだ。福岡・松島の両WTBは完全にワールドクラスの決定力で、80分を通じてある種の支配力を発揮していた。リーチや堀江、そして姫野の獅子奮迅の活躍。一切の厭いなく身体を張り続けるトンプソンとムーアの両LO。流と田中の2人のSHでゲームテンポとマネジメントを掌握する展開も、この日は特にハマっていた。スクラムを支えたフロントローも、ジャパンの攻撃の全ての起点となりグラウンドに彩りを与えた田村・中村・ラファエレのトップ3も、最後尾から力強いランで沸かせたトゥポウも、更には全てのリザーブメンバーも含めて、まさに全員がベスト・パフォーマンスを存分に示してくれた。ラグビーを愛するファンの1人として、もう「本当にありがとう」の思いしかない。

とにかく感動の瞬間は尽きないのだけれど、個人的に特に心を打たれたことを書き残してみたい。"One Team"の想いを胸に戦うというのが、どういうことなのか、ということについて。

試合開始前。グラウンドでの最後のアップを済ませた選手たちが、ジャージを替えるために一旦ロッカールームに引き揚げる。その瞬間、ジャパンは主将のリーチを先頭に、前を歩く仲間の肩に手を添える陣形を取り、まさに"One Team"の行軍を見せた。ジェイミーの考案なのだろうか。詳細は分からないけれど、明らかに準備していたのだろう。通常のゲームでは芝居がかってしまう部分も否めず、なかなかここまで出来ないものだ。でも、こういう特別な一戦のために、こういう特別な準備が必要なのだということを、ジェイミー率いるジャパンは熟知していたのだと思う。あの時のリーチの表情は、既に内なる「鬼の決意」が溢れ出たような強いものだった。

前半20分、自陣右サイドのスクラム。その前のプレーでおそらく肋骨を負傷していた右PRの具智元が交替を余儀なくされる。プランよりもかなり早い時間帯にピッチに立つことになったのは、ヴァルアサエリ愛。その表情が印象的だった。一切の気負いもプレッシャーもなく、いつでも行ける準備が出来ていること、そしてこの交替が単なるプロップの入替ではなく、具智元の想いを引き継ぐものだというのを完全に理解しているのが、はっきりと感じられたからだ。そしてあの瞬間、おそらくチーム全員がこのスクラムの重要性を強烈に意識していたはずだ。画面越しにも、FW全体の結束とオーラが伝わってきた。たぶん全員が思っていたんじゃないか。「具智元をQuarter Finalに連れて行く」と。この運命のスクラムの結果は、スコットランドのPK。ジャパンのFWが見事に組み勝った。俺は個人的に、このゲームの"Best Moment”はこの瞬間だったと思っている。もう一点、レフリーの笛が鳴った直後、スクラムの最後尾に位置するNo.8の姫野が両腕を振り上げて歓喜の雄叫びを上げたのも、胸に響くものがあった。あのシーンに、フロント陣へのあくなき信頼と、そして「スクラムはフロントローだけのものじゃない」という決意の両方が浮かび上がっていたと思うからだ。

後半も中盤に差し掛かった頃。苦しい時間帯の中、ブレイクダウンで足元に絡みついていった田村優に対して、スコットランドの若きフランカー、ジェイミー・リッチーが喰ってかかる場面があった。その瞬間、姫野が2人の間に割って入るのだが、その形相が本当に凄かった。ラグビーは紳士のスポーツと呼ばれるが、荒ぶるスポーツでもある。グラウンド上で一触即発の諍いが起きるのは珍しいことじゃない。俺が心を打たれたのは、明らかに仲間を守ろうという決然たる意志を姫野の表情に感じ取ったからだ。俺自身は高校・大学と比較的大人しいチームで育ってきて、あまりこの手の経験はなかったのだけれど、社会人に行ってからちょっと物事の見方を変えるようになった。勿論、乱闘を是とする訳ではなく、ラグビーにおいては熱さと冷静さのバランスを常に保たなければいけないのだけれど、理屈の前に仲間は守るべきだ。チームで戦うというのは、そういうことだ。単なる野蛮ではない。あのシーンのRootにあったのは間違いなく「仲間のために身体を張るメンタリティ」なのだということを、今大会を通じてラグビーの魅力に触れることになった多くの方々に知ってもらえればと思う。

そして最後に、ノーサイドを迎えた後の横浜スタジアム。そこには布巻がいた。地上波で観戦されていた方は分からなかったと思うが、JSports2の解説として放送席にいた布巻は、ジャパンが歴史を変えるノーサイドの笛が鳴り響いた後、放送席を飛び出してピッチに降りていった。ジャパンで活躍するためにフランカーに転向し、今回のW杯のためにずっと自己研鑽を続けながら、本大会メンバー31人の最終選考で惜しくも涙を呑むことになった布巻が、ピッチ上のメンバーと勝利を称え合う姿は、本当に感動的だった。JSportsでは、試合後にメンバー全員で集合写真を撮るシーンも中継されていて、その中央にはスーツ姿の布巻があった。笑顔だったけれど、目は潤んでいたと思う。前回大会の廣瀬ほど取り上げられることもなく、ある意味では静かに代表合宿を離れるしかなかった布巻がチームに囲まれるのを見て、これが本当のOne Teamなのだと思わずにはいられなかった。

俺は思う。ジャパンの素晴らしさは、"One Team"を完遂したことだと。
チームコンセプトやスローガンを掲げてシーズンに臨むラグビーチームは少なくないが、言葉を「本物」に出来るチームは極めて少ない。掲げた言葉を自らのものとして胸に刻み、日々その言葉を生きる。そういう時間をチーム全員で積み重ねていくことでしか、チームコンセプトを本物に昇華させることなど叶わない。結局のところ、ジャパンの全メンバー、そして全ての関係者が、4年間にわたってそういう濃密な時間を捧げてきたのだと思う。ジャパンが感動を誘うのは、プレーの端々に、そして本当に小さな所作だったりインタビューでの一言一句の中に、積み重ねてきた時間と汗の重さがはっきりと感じられるからだ。

次は念願のQuarter Final。相手がスプリングボクスというのも申し分ない。
"One Team"として過ごす美しくも有限の時間に、ただ全身全霊を注いで没頭してほしい。