Saturday, October 12, 2019

RWC 2019 日本vsスコットランド - 私的プレビュー








2019.10.13。日本ラグビーの歴史を変える戦いは、いよいよ明日です。
前回の2015年W杯で南アフリカを撃破した「ブライトンの奇跡」の中で、ゲーム終了間際に得たPKでスクラムを選択した有名なシーンにおいて、「歴史変えるの誰?」という永遠に語り継がれるであろう名言でFWを鼓舞したのはトンプソン・ルークですが、あの日こじ開けたのが歴史の扉だとするならば、今回は扉の先を本当の意味で「ジャパンの場所」にするための戦いです。それが決して簡単なチャレンジではないことは、今大会をここまで3連勝で勝ち進んでいる今も変わりません。HCのジェイミーも、ジャパンの選手たちも、メディアに表れるコメント以上にその感覚を持っているでしょう。

ファンにできることは、ジャパンの誇りを信じること。ジャパンが最高のパフォーマンスを魅せられるように、声援を届けることに尽きるかなと思います。

まず何より、台風のことを。
日本列島に迫り来る大型の台風19号の影響は、既にW杯に及んでいます。
既に報道されているように、明日10/12(土)に開催予定だったNZvsイタリア、イングランドvsフランスの2試合について、World Rugbyおよび組織委員会は、RWC史上初の中止を決定しました。本大会の開幕前に事前に定められていた規定に基づき、予選プールの試合は延期による日程再調整とせず、0−0の引き分け扱いで双方に勝ち点2を与える形式のため、例えばイタリアは世界最強軍団であるABsに挑むことなく予選敗退となりました。

この決定に関しては、メディア上でも様々な意見が錯綜しています。当事者であるイタリアの胸中に行き場のない無念が残るのは、仕方のないことだと思います。ちなみに、現時点で、日本vsスコットランドも含めて、13日(日)のゲームは開催予定で計画されていますが、仮にスコットランド戦が中止になると、ジャパンは勝ち点16で予選プール1位通過(初の決勝トーナメント進出)が確定します。

ただ、そのような結末を誰1人として望んでいないことは、この場に書き留めておきたいです。本当に大切なものに触れるためには、このblogを読むだけで十分です。

ジャパン8強への条件を、違う視点から ー
今回のスコットランド戦は、ジャパンが予選プールを突破するための最終関門ですが、命運を定めるのは単純な勝敗のみでなく「勝ち点」です。この点も既に多くのメディアが取り上げているので、ご存知の方が少なくないと思います。ただ、殆どの記事はジャパン視点で書かれていますよね。でも、本当に大切なのはこれを「スコットランド視点」で捉えることです。

スコットランドは、現在勝ち点10。勝ち点14のジャパンを上回るためには、ジャパンに勝ち点を与えずに勝利するか、もしくは勝ち点1(4トライ獲得または7点差以内の敗戦)を与えても、自分たちが4トライ以上で勝利することが条件になります。つまり、彼らが目指すのは単に勝利することではなく、「極力ジャパンにスコアさせずに勝利すること」なんです。こうして相手の視点に立って考えると、想定されるゲームプランがなんとなく浮かび上がってきます。

で、肝心のスコットランド戦のポイントは ー
ジャパンの過去3試合を振り返ってみると、合計9つのトライを挙げています。そのうち、松島が4つ、福岡が2つと両WTBで6つを稼いでいるのが分かります。これはジャパンがずっと目指してきた理想形で、世界トップレベルの高速展開ラグビーで相手を撹乱し、外側に生まれたスペースにジャパンが誇る2人のスピードランナーを走らせる。彼らはスペースがあれば、ワールドクラスの相手でも取り切りますからね。言葉にするのは簡単ですが、RWCの舞台で完遂するのは極めて難しい戦略を、ジャパンはここまで見事に展開してきています。

となれば、スコットランドは当然この2人を警戒してくるでしょう。では、スピードランナーを止めるにはどうするか。最もオーソドックスなのは、そもそも走らせないことなんです。例えば、松島や福岡の位置を狙ってハイボールを蹴り込む。彼らがキャッチした瞬間にディフェンダーがタックルできるような間合いでキックを落とせば、加速を許さずに潰せますよね。そして、タックルの集中砲火で精神的プレッシャーをかけることも可能になります。「ティア1」と呼ばれる世界の強豪国は、こういう「絶対にすべきプレー」を80分に渡って高い精度で徹底できるからこそ、ティア1に君臨しているんです。

もう1つが、パワープレイ。台風によるグラウンドコンディションへの影響によっても変わってきますが、一般的に「重馬場」の戦いではパワープレイが増えます。雨などでボールが濡れているとハンドリングエラーが起きやすく、またグラウンドがぬかるんでいるとランニングスピードを上げづらいので、パス数を減らして、力強いランナーをシンプルに使う戦術に振れやすいというのもありますが、特に最近のラグビーでは「ターンオーバー」と呼ばれる攻守の切り替わりがスコアの起点になることが多いんです。つまり、ジャパンのスコアチャンスを抑え込むために、スコットランドとしてはミスを減らしたい。

この2つが、日曜日のゲームを見る上で念頭に置いておきたいポイントです。裏返すと、ジャパン勝利への道筋と必須要件も浮かび上がってきます。

まずはハイボールを確実に確保して、相手に不用意なチャンスを与えないことです。松島も福岡も、身長は決して高くないですが、ハイボール処理は決して弱くありません。ただ、相手はスコットランドだというのを忘れてはいけない。ちなみに、ジャパンの通算戦績は1勝11敗です。侮れる相手ではありません。

もう1つは、パワーにパワーできちんと対抗することです。相手の強みから逃げてはいけない。相手の強みを消す戦略・戦術というのも当然ありますが、スコットランドに対してはもう真っ向勝負です。パワープレイというのは、スコアまでに時間を要するという難点があります。極論してしまうと、仮に50mを独走できれば30秒でもスコアできるけれど、相手を2m吹っ飛ばして、大男たちが結集して相手を3m押し込んだとしても、スコアまでの射程距離には届かない。つまり、相手のパワーをきちんと受け止めて、弾き返すというタイトな戦いを継続できれば、スコットランドはいずれ、ジャパン以外に「もう1つの敵」とも戦わなければいけなくなるんです。そう、「時間」という敵と。

いつだって聞きたい。このゲームの注目選手は ー
間違いなくウィリアム・トゥポウです。開幕戦のロシア戦を終えた後、アイルランド戦の直前に肉離れを起こして戦線離脱していましたが、この大舞台に戻ってきました。福岡や松島をチームの最後尾から助けてあげられるのは、トゥポウしかいません。指揮官に託されたミッションも、シンプルにはこの点に集約されるでしょう。タックル。キック処理。当たり前のことを、当たり前にやり切るということに。

一般的に、チームが良いモメンタムにある時に、メンバーを入れ替えるのは勇気を伴います。「シズオカの衝撃(Shock in Shizuoka)」を経て、サモアもBPを奪って撃破してきた中で、ここまでスターターだった山中から切り替えるのは難しいチョイスだったはず。つまり、それだけジェイミーはトゥポウを信頼しているということです。

トゥポウは、そのことを間違いなく理解していると思います。今回のジェイミーの決断ほど彼を奮い立たせるものはないでしょう。おそらく、人生において一度でもあれば幸せだというほどに、心を震わせていると思います。そういう瞬間を生きる誇り高きアスリートの姿から、目を離すことなどできません。


本当に、もう待ち切れないですね。