Saturday, October 19, 2019

Beat the Boks Again - 日本vs南アフリカ 私的プレビュー








10月20日。ジャパンはこれまでに経験したことのない「未踏の地」に挑むことになります。
RWCベスト8、Quarter Finalという極限の闘争にー。

ラグビーの神様は、3年前のその日からずっと、日本ラグビーを見守ってくれていたのかもしれません。奇しくもこの日は、日本ラグビー史が誇る天才としてその名を馳せた平尾誠二さんの命日です。日本中を巻き込んだ信じられないほどのファンの熱狂と声援がジャパンを支えているように、天に護られているかのような奇跡の日程が醸し出す「場のオーラ」もきっと、ジャパンを支えてくれるはずです。

Quarter Finalとは ー
RWCは間違いなく世界で最もエキサイティングなスポーツの祭典であり、予選プールから全ての試合が見る者の心を震わせる熱戦です。このことは、既に今大会のジャパンが見事に証明してきました。でも、激闘の予選プールを勝ち抜いたトップ8による決勝トーナメントは、もはや別次元です。

全てのチームがウェブ・エリス・カップ(Webb Ellis Cup)を照準に見据えています。初の決勝トーナメント進出となるジャパンも例外ではありません。残された死闘は、最大でも3つです。ABsやジャパンが戦う南アフリカ(SA)のような強豪国は、約1ヶ月半という大会期間の中で、最後に王者の座を射止めるためのピーキングをしていきます。チームというのはレベルを問わず生き物なので、明確な照準を定めた上で、モメンタムを見極めながら作り上げていくものなんです。つまり、例えば"Completely-built ABs"は、これから登場してくるということです。当然ながら、SAも同様です。

また、ここから先は一度でも負ければRWCの舞台を去ることになるノックダウン方式です。もう調整も試行もない。明日分析されようとも、今、勝ち切るために全力を賭すことになります。世界のトップ8が死力を尽くす総力戦です。面白くない訳がありません。

平尾さんが描いたビジョン。ジェイミーが確立したジャパン。
同志社大での大学ラグビー3連覇、神戸製鋼での社会人ラグビー7連覇と、日本ラグビーにおける伝説的な偉業の中心にはいつも平尾さんがいました。プレーヤーとしての華々しい実績は、これまでラグビーに触れる機会がなかった多くの方もご存知かと思います。加えて、平尾さんには指導者としての顔もありました。22年前の1997年、ジャパンの監督に就任。指揮官として第4回RWC(1999)を戦っています。

平尾さんが思い描いていたであろうジャパン・ラグビーのグランド・デザインを語るのは、私にはあまりに荷が重く、十分な知見も言葉も持ち合わせていませんが、おそらく平尾さんは20年前に、"20 years later"のビジョンを持っていたのだと思います。当時、アンドリュー・マコーミックをジャパン初の外国人キャプテンに任命し、ABsでのプレー経験を有する強力な外国人プレーヤーを主軸に据えながら、彼らの豊富な経験と実績をジャパンに融合させることを志向されたのが平尾さんでした。

あの頃の構想の本質は、単なる「補強」でも、日本人で埋められないピースの「補完」でもなく、確かに「融合」だったのだと思います。現役時代から極めて高いスキルと判断能力、そして状況への柔軟な対応力を武器に「オンリーワンの存在」として活躍された平尾さんはきっと、当時の外国人選手たちのfoundationalな部分、すなわちラグビーに対する理解力や反応力、チームの原理・原則の中でも自らの意志で柔軟に判断するマインドセット、あるいはより深層にあるカルチャーまで踏み込んで、それらをジャパンとして包摂し、ジャパンに融合させようと試みた。

結果的に、1999年のW杯におけるジャパンの戦績は4戦全敗で、大会終了後に平尾さんは監督を退任されるのですが、ある意味では当時は日本ラグビーの土壌、つまり「ベースライン」が平尾さんのコンセプトに追いついていなかったのかもしれません。

あれから20年。今、ジェイミー率いるジャパンは、あの頃のビジョンを1つの具体的な形として昇華させ、乗り越えていこうとしています。本大会のジャパンの強みも、まさしく「融合」にあるからです。

SAとジャパン。2つのチームの異なる志向性 ー
さて、SAとの因縁の再戦。肝心のポイントを考える上で、両チームの志向性の違いをイメージすると、ゲームの綾が分かりやすくなるかもしれません。

SAは伝統的に"focus"のチームです。言葉を変えると、明確な強みを持っている。端的に言えば、圧力ですね。彼らが真骨頂を発揮した時のブレイクダウンの圧力は、間違いなく世界No.1です。サイズに優れたパワフルなFWを、シンプルに勝負させてくる。もちろんABsと並ぶ世界トップレベルの強豪国なので、戦略・戦術も決して単純ではなく、幅広いスキルを武器に極めて高度なラグビーを構築できるチームですが、いつの時代にあってもSAの原点は明確なんです。圧力。この一言に尽きます。彼らがスタジアムを支配する時とは、彼らの圧力が全てを凌駕する時です。裏返せば、世界最高レベルの圧力を跳ね返すことが、ジャパン勝利への最低条件になってきます。

対照的に、今大会のジャパンは"unfocus"で勝ち上がってきたチームです。つまり、相手に的を絞らせない。パス主体の高速展開もあれば、キックを効果的に使ったエリアマネジメントと決定的チャンスの創出もハマっている。スクラムに代表されるFWの肉弾戦も、間違いなく世界トップの結束力と細部まで徹底的にこだわり抜いたコンビネーションで真っ向勝負。こうした全てがシナジーを生み出して、戦略の幅を作り出すことに成功しています。シナジーとはつまり「融合」なんですよね。だからこそ、この日を平尾さんの命日に迎えるということが、より運命的なものとして私には感じられるんです。

大一番に向けて、スターターを変えてきた勇気と、山中の使命 ー
予選プール4連勝で、これ以上ないモメンタムを作り上げた今のジャパンを考えると、メンバーの入替はどうしても躊躇するもので、日本中が注目する世紀の一戦となれば尚更でしょう。そんな中でHCのジェイミーは、先週のスコットランド戦から1人だけスターターを入れ替えてきました。ウィリアム・トゥポウに代わってFBとして起用された山中亮平です。想像ですが、これはジェイミーにとっても極めて難しい判断だったのかなと思います。

山中の強みは幾つもありますが、特に重要なのは左から繰り出すロングキックです。これは、現ジャパン31人の中でも、山中を輝かせるオンリーワンの強みになっています。
SAの"focus"に対しては真っ向勝負。ジャパンは決して逃げない。とはいえ、あの圧力を80分間にわたって撃ち返すのは並大抵のことではありません。そう考えた時に、特に左のロングキックは貴重な命綱となる可能性を秘めています。何故ならば、後ろへのパスしか許されないラグビーという競技において、相手とのフィジカル・コンタクトを回避しながら前にボールを運べる唯一の手段がキックだからです。日曜日のゲームにおいて、山中のファーストタッチ(その試合で最初にボールに触れる瞬間)、そしてファーストキックの軌道は、目が離せない注目ポイントです。左足から長いキックが綺麗な弧を描いて放たれた時、ジャパンは最高の武器を1つ確立することになります。


今回は殊更長くなってしまいましたが、SAとの決戦に向けて、見所はもう本当に尽きることがありません。ジャパンとして母国と戦う南アフリカ人、ラピースことピーター・ラブスカフニのことも、桐蔭学園を卒業後、単身南アフリカに渡ってラグビーの武者修行を生き抜いた松島幸太朗のことも、パワフルな猛者たちの中にあって、圧倒的なスピードとキレで世界の注目を集める小さなWTB、チェスリン・コルビと福岡堅樹との直接対決のことも、書きたいことが次々と脳裏に浮かんでくるのですが、これ以上書き連ねていると、試合が始まる前に力尽きてしまいそうなので・・・。

あとは、とにかく全力で応援するだけですね。
もう奇跡と呼ばせない勝利を信じて。