Friday, October 04, 2019

RWC 2019 日本vsサモア - 私的プレビュー








相手より5歩余計に走れば、その5歩が既に勝利への5歩だ。
ー イビチャ・オシム(サッカー指導者、1941- )


そっと胸に手を当てて、自らの心に問いかける。
明日に迫った闘いを前に、その先に待つ最終節、つまりスコットランド戦へと繋がっていく一連の「流れ」の1つとして明日を見据える気持ちが、心の片隅に、ほんの一片もないと言い切れるだろうか。
その思いは、今すぐに捨て去った方がいい。わずかばかりの心の隙さえも許さず、極論すれば相手のことさえ意識の中心から周辺へとシフトさせ、ただ自分たちのすべきラグビーに徹底的にフォーカスする。

明日のサモア戦は、そういうゲームです。というよりも、そう戦わなければいけない。
W杯に楽なゲームなど1つもなく、小さな心の隙を見逃してくれるほど、誇り高きサモアン・フィフティーンは甘くありません。

サモア代表は今、何を思うのか ー
本日現在、World Rankingでは15位と、ジャパン(過去最高の8位)の後塵を拝しているサモア。本大会では現時点で1勝1敗(勝ち点5)と、予選Aプールではスコットランドと並んで3番手の位置にあります。前節のスコットランド戦では0-34と完敗を喫しており、加えてこれまでの2試合での危険なプレーによって、主力2人が出場停止という苦しい状況です。私もスコットランド戦をTVで観戦しましたが、端的に言えば「サモアが崩れた」ゲームだったと言っていいでしょう。
つまり、サモアは今、チームビルディングの観点でいえば再構築(Rebuild)の過程にあります。ジャパンが洗練(Refine)の局面にいるのとは対照的です。

その彼らは今、何を考えているのか。もちろん真実は彼らのみぞ知るところですが、想像することも、想定することもできます。間違いなく、プライドを徹底的に燃え上がらせているはずです。サモア代表はW杯でも過去に2度ベスト8(Quarter Final)に進出した経験があります。ジャパンとの通算成績は、ジャパンの4勝11敗。その彼らが、Rootの部分でジャパンに「勝てない」と思うはずがありません。

私はいつもラグビーの見どころの1つとして「後半20分の表情」を挙げていますが、明日はまずグラウンドに立った瞬間のサモアの男たちを見てください。そして国歌斉唱の後には、サモアが誇るウォークライ「シヴァ・タウ」が続きます。燃えたぎるサモア、その本質を垣間見ることができるはずです。

2人の注目プレーヤーのことを。
サモアには日本でもお馴染みのスーパースターが2人います。1人は15番を背負うティム・ナナイウィリアムズ。もう1人は、明日はリザーブに廻ったSOのトゥシ・ピシです。
この2人は日本のトップリーグでプレーした経験もあり、日本ラグビーを非常によく知っています。ピシは7シーズン(2010-2016)に渡って強豪サントリーを牽引した英雄で、日本国内でも非常に高い人気を誇る選手です。ナナイウィリアムズは、間違いなく明日のキープレーヤーになるでしょう。完封を喫したとはいえ、スコットランド戦でも気迫溢れるランは健在。豊富な経験に導かれた判断力とキレの良いステップワークは注目です。

肉弾戦の破壊力が魅力のサモア・ラグビーに、ちょっと違った角度から彩りを与えるフィールドのアーティスト達を、ジャパンがどう封じ込めるのか。この辺りも明日のゲームを占う重要なポイントです。

ジャパンがすべきこと。そして肝心の明日の見どころは ー
サモアは決して弱くありません。これだけは断言できます。そして、そのサモアに対峙するジャパンが明日すべきことは、実は極めてシンプルです。端的に言ってしまうと、サモアの心を折ることです。

前回の2015年W杯において、3勝しながら予選プール敗退となった苦い記憶もあり、「シズオカの衝撃 (Shock in Shizuoka) 」として世界に衝撃を与えたアイルランド戦以降、少なくない識者・評論家がボーナスポイント(BP)を取れるかどうかを、明日のポイントとして挙げています。既に多くのメディアが取り上げているので、ご存知の方も多いと思いますが、ラグビーW杯では4トライ以上を奪うと勝敗に関わらず1点のBPが与えられます。勝利すれば4ポイントなので、4トライ以上の勝利で最大5ポイントですね。

明日のサモア戦で5ポイントを獲得すれば、ジャパンは最終節のスコットランド戦に向けて非常に大きなアドバンテージを勝ち取ることになるのは、紛れもない事実です。でも、ヘッドコーチ(HC)のジェイミーは、BPについて一切言及していません。そして私は、それが当然のスタンスだと考えています。極論すれば、サモアの心を折るラグビーを貫いたならば、3-0でも最高の勝利となるのが明日のゲームです。

それならば、どうやってサモアの心を折るか。これもシンプルです。荒ぶるサモアの猛者たちの突進をきちんと制圧して、前に行かせないことから全ては始まります。なぜならば、前進こそが人間のエナジーの根源だからです。

サモアは強い。スピードを持った巨漢が、魂を乗せてクラッシュしてきます。特に前半の40分間は、ジャパンの戦略やパフォーマンスを問わず、基本的にはこの展開が繰り返されると思います。でも、40分間を通してジャパンの15人が鎖となって彼らの突進を撃ち返し、前進を許さなかったとすれば ー。

その時、ジャパンはもう豊田スタジアムの空気を支配しているはずです。
前半終了のホイッスルが鳴って、ロッカーへと戻っていく時のサモアの選手たちの姿に「小さな絶望」を、いやそこまで行かなくても「小さな閉塞感」を感じ取ることができたとすれば、ジャパンはBPの有無などでは測れないほどの絶対的なアドバンテージを勝ち取ることになります。

W杯というのは、いつだって「人間の戦い」なんです。