Monday, July 20, 2020

勝手に事業部通信 Vol.20(20/07/20)

"No grand idea was ever born in a conference, but a lot of foolish ideas have died there."
(素晴らしいアイデアが会議で生まれたことなどないが、数多のくだらないアイデアは会議で死滅していった。ー スコット・フィッツジェラルド(作家、1896-1940))

新型コロナウィルス感染症の危機が全世界的に拡大する中で、社会のあり方そのものが変革を迫られている今日この頃。"New Normal"という言葉がバズワードのように語られ、その流れの中でテクノロジーへの期待がより一層強まっていく傾向を肌で感じる瞬間は、日々明らかに増えてきています。IT業界を牽引すべき立場に身を置くものとして、私たちがすべきことも、出来ることも、今まで以上に大きくなっていくのは間違いないと思います。

そのような大きな時代の変化にライブで向き合いながら、ふと思う瞬間はないでしょうか。テクノロジーは、どこまで人間を変えていけるのだろうかと。レイ・カーツワイルが2045年のシンギュラリティ到来を予測したのは2005年ですが、あれから15年を経た今、New Normalへと向かっていく私たちの社会において、技術と人間はどのように関わっていくのでしょうか。

そんなことを書いてみたくなったきっかけは、2つの興味深いストーリーです。

稲盛和夫が創業した日本を代表する優良企業の1つ、京セラ。ご存知の方もいるかもしれませんが、IBMがCloud Pak for Data(CP4D)を活用したデータ分析基盤の提供を通じて、AIの積極的な活用を支援しています。京セラでは2017年から「生産性倍増プロジェクト」を立ち上げ、データを活用した大幅な業務変革へのチャレンジを推進されているのですが、その中でAIの本格活用に踏み出す契機となったのは、ファインセラミックの製造工程改革だったそうです。

この分野で生産性を大きく引き上げるための最大のチャレンジは、不良品の発生率でした。ファインセラミックは焼成の過程で2割ほど縮んでしまうため、収縮率を正確に予測することが歩留まり改善のキーファクターで、従来は熟練工が40年の歴史の中で積み上げてきた勘と経験に依拠していました。形式知にならないような匠の技をベースに、チューニングを重ねることで、確かな品質を作り上げてきた訳です。

ところがこうした暗黙知を、匙加減のようなものまで含めて徹底的にデータ化して、新たに構築した予測モデルに分析させてみると、いきなり6%も歩留まり率が改善したといいます。40年の歴史でも成し得なかったレベルを、データは汗ひとつ見せることなく揚々と飛び越えていったんです。データの持つ本当の力に圧倒された京セラ社内では、次なるAIのユースケースのアイデアが続々と湧き上がってくるようになります。

その一方で、これと全く正反対の発想に活路を見出す人たちもいます。つまり、テクノロジーでは到達し得ない地平ですね。その代表格は、大村達郎という人かもしれません。決して有名人ではないですが、緊急事態宣言下の不自由な社会環境の中にあった5月、UberEats配達員として月収100万円を達成した「知られざるプロフェッショナル」です。彼は元々バイク便を手掛けるT-servのメッセンジャーだったのですが、彼が入社した頃のT-servではGoogle Mapの利用が禁止されていて、ボロボロになるまで紙の地図を使ったそうです。その理由が、シンプルながら非常に面白い。「自分の頭の中で地図を描けるヤツが、一番荷物を届けるのが早い」のだと。つまり、Google Mapなんか使っていたら、最速で荷物は届けられないというんです。テクノロジーでBetterにはなれるかもしれない。でも、テクノロジーなんかに頼っていては、Very Bestには決してなれないと。大村さんのインタビューを読んでいけば、それも当然だと思います。Google Mapに配送先の住所入力を行っているメッセンジャーを横目に、彼はもうバイクのエンジンをふかして走り出しているのですから。頭の中の最短ルートを取るために。

シンギュラリティの文脈においては、よく「人間 vs AI」といった対立軸で物事が語られたりします。AIは人間の仕事を奪うのかとか、所詮はソフトウェアでしかないAIに真の思考などないのだとか。でも、現実の世界には2つの異なる表情があるんです。
まだAIの技術がMaturity Carveの頂点に達したとは決して言えない今この瞬間においてさえ、AIは、あるいはデータは、ある場面では人間を容易に超えていく。そしてその隣で、AIに助けを乞う愚か者を嘲笑うように、熟練のメッセンジャーは誰よりも速く23区という現代の迷宮を駆け抜けていく。

そんなことを取り止めもなく考えていると、ふとした瞬間に、次の質問が脳裏に浮かんできます。私たちは、そのどちらに向かおうとしているのだろうか。例えば営業は、本当に後者だと言い切れるのだろうかと。テクノロジーが決して超えることのないレベルを維持するプロフェッショナルとして。

テクロノジーの真価と価値をきちんと見つめて、その意味と本質をお客様にお届けする活動を通じて、社会全体に貢献していくのが本来求められる営業の姿なのだとしたら、私たちが忘れてはいけないのは、結局のところ考え続けることなのかもしれないですね。大村達郎というメッセンジャーが、最高のルートをいつだって自分の頭で考え抜いているように。ただ、私たちの仕事はメッセンジャーではないので、「何を届けるか」を考えることから全てが始まっていくような気がします。

Monday, January 27, 2020

日野の戦い - ウィニング・カルチャーのために

昨日に引き続いて、トップリーグ第3節。
日野自動車vsトヨタ自動車のことも書いておきたい。

ファイナルスコアは31-61。地力に勝るトヨタが後半の40分で一気にギアを上げて日野を退けた。1人挙げるならば、やはりFBのウィリー・ルルー。素晴らしいパフォーマンスだった。人によって見方は異なるかもしれないが、俺が個人的に素晴らしいと感じるのは球持ちの長さと、そして球離れの良さだ。一見すると相反する特性なのだが、この2つを共存させられるBKプレーヤーというのは、例外なく良い選手だ。ランニングコースと緩急に常に判断と工夫があり、最終的なチョイスの瞬間を人よりも0.5秒引き延ばすことができる。このわずか0.5秒の価値は、ある程度のレベルでラグビーをしてきた人間であれば誰もが理解するはずだ。藤島大さんだったらこう書くかもしれない。
"ラグビーの本当の楽しさを知りたければ、ルルーの隣を走ればいい" なんてね。

とはいえ、本当に書きたいのはトヨタではなく、日野の方だ。この日の日野自動車を見ていて、チームが成長するプロセスのことを思ったからだ。まだ時間はかかるかもしれないけれど、今の日野は非常に重要な階段を越えようとしているのではないか。いや、階段というよりもむしろ崖というべきなのかもしれないが、とにかくStep by Stepでチーム強化を進めていく先に、一度どこかで大きく飛び越えないといけない断崖のようなものがある。そして現実は常に冷酷で、相当数のチームはこの断崖を前にして足が止まる。あるいは、飛び越える準備を完遂する覚悟さえ持てずに退却してしまう。でも、日野自動車は思い切り向き合っていこうとしているように感じられて、個人的には心を掴まれた。

日野のスターターは錚々たる顔ぶれだ。久富雄一。浅原拓真。北川俊澄。佐々木隆道。堀江恭佑。リザーブにも木津武士や中園真司がいる。彼らの特徴は何か。彼らが日野に持ち込み、更にはチームカルチャーの根幹部分に埋め込もうとしているものは何か。部外者の俺が断言するのも気が引けるが、突き詰めてしまえば、解は1つしかないはずだ。そう、「ウィニング・カルチャー」以外にあり得ない。彼らが年齢的にピークを越えつつあるとしても、今でも日野というチームで輝きを放っているのは、彼らは「勝つための道筋」を経験的に知っていて、そのビジョンを胸に「勝つための戦い」をしているからだ。トヨタ相手に14-19で折り返した前半40分が示した最大の価値はその点にあると、俺は思っている。

トップリーグでプレーする機会を勝ち取る人間というのは、例外なく身体能力に優れたアスリートだ。大学卒業までのラグビーキャリアにおいても、基本的に勝ち続けてきた人間が多い。でも、そういう人間でもどこかで壁にぶつかる。「負けたくて試合してるヤツなんていない」と言葉で語るのは簡単だが、このレベルの人間たちでさえ、本当の意味で「負けない心」を失うことなく戦い続けられる選手ばかりではないのが現実だ。戦うステージを駆け上がっていくというのは、つまりはそういうことだ。これは自分自身の経験を通して、身をもって学んだことでもある。言葉で繕うことのできない弱さを克服する戦い。それは極めてタフな日常の連続だ。その時に、リーダーや仲間が果たす役割は限りなく大きい。「自分のポテンシャルをムダに捨てるんじゃねえよ」とストレートに言ってくれるリーダーの存在は、絶対にチームを変えていく。1人だけで戦い切れるほど、トップリーグが簡単なリーグではないのは明らかだ。これも、IBMラグビー部が俺に教えてくれたことの1つだ。

日野は勝つためのラグビーをした。佐々木隆道のプレーはウィニング・カルチャーを持つリーダーの生き様そのものだった。それでも今は、前半40分かもしれない。そして、今シーズンのスターターを占める多くのメンバーは、いずれ若手の台頭と共に出番を減らしていくことになるのかもしれない。でもそれは、ウィニング・カルチャーを埋め込むために必要な時間なのかなという気がする。そして俺としては、そうやって勝負し続けるチームも、個人も、基本的に大好きだ。

戦う場所があるというのは、それだけで幸福だ。
その幸福の意味を知っているから、彼らは必死で戦うのだと思う。

Sunday, January 26, 2020

特別な存在について - 神戸製鋼vsサントリー

今、トップリーグが本当に面白い。
開幕からの3節で幾つかの試合を見ているが、総じて熱戦が多く、レベルも明らかに上がってきている。各チームにインターナショナルレベルの選手がこれほど充実してくると、見所は尽きることがなく、どの試合を見ていても心を震わせるものがある。サンウルブズもこれから2020シーズンの舞台に臨むことになるが、ラグビーを愛するものとしてはどちらも目が離せない。ここから先が本当に楽しみだ。

ところで、この週末に行われた神戸製鋼vsサントリーを見ていて、個人的に感じたことを書いてみたい。
試合自体は事前に予想された通り非常にハイレベルの攻防となったが、結果的には昨年度覇者の神戸製鋼が見事なゲームマネジメントを見せて、勝利を手繰り寄せた。もうこのレベルに来ると、特定の1つの要素でゲーム全体を語ることなど不可能なのだけれど、印象的だったのは大駒の機能だ。具体的に言えば、神戸にはブロディ・レタリック、サントリーにはサム・ケレビという圧倒的存在がいるのだけれど、チームの中での機能と役割を考えた時に、ある意味では対照的に感じる部分があった。

レタリックは、特にこの日はパスで魅せていた。破壊力のあるキャリーは間違いなく特別な武器なのだが、このゲームでレタリックが示した凄さは単純な突破力というよりも、もっとベーシックな部分にあった。例えばポジショニングの速さや、プレッシャー下でもスモールゲインを確実に獲得してくれる信頼感。そして何よりも判断の正確性。相手からすれば「レタリックのマークは絶対に外す訳にはいかない」という状況の中で、こうした個人スキルの高さが遺憾なく発揮されて、その結果として周囲のプレーヤーが存分に活かされているような印象だった。

一方のケレビ。大きな構造で言えば、ケレビにも同様の部分があり、グラウンド中央のワイドスペースでボールを受ければDFは1枚ではとても止まらない。その結果、ケレビをマークするディフェンダーの両隣にもプレッシャーがかかって、どうしてもDFラインの中に部分的な偏りが生まれてしまう。そこにボールを運んでゲインを切っていくサントリーのスタイルは、有効に機能していたと思う。例えば、この日WTBの中靍が幾度となく見せた快走を生んだ背景には、間違いなくインサイドのケレビの存在感があったはずだ。でも、俺としては少々惜しい感じがした。スコアに直接繋がるポテンシャルを持った形でケレビ自身が使われることは、このゲームでは殆どなかったからだ。実際には、この日のサントリーが本当に必要としていたのは、神戸の厚いディフェンスを切り崩してスコアまで持っていけるランナーであり、その1st Choiceは間違いなくケレビだったと思うのだけれど。

この観点で言うと、個人的に思い出されるのは、先日の大学ラグビー選手権決勝の構造だ。もちろんトップリーグ、それも神戸製鋼やサントリーのレベルとは根本的に異なるので一概に比較はできないが、あの試合で早稲田大が見せたCTB中野の使い方は非常に興味深いものだった。中野の破壊力は間違いなく大学ラグビーでは傑出していて、彼が大学選手権の準決勝から復帰してきたのは早稲田にとって決定的に重要なファクターだったはずだ。アシスタントコーチの後藤翔太さんはRugby Japan 365のコラムの中で「(中野の復帰は)確かに大きかったのですが、それはボーナスという感じです。チーム全体のアタックのスピードが上がったところに、(中野)将伍があのサイズとパワーで入って行くから破壊力が余計に上がった。」と語っているけれど、どう考えてもメディア向けの発言だろう。「中野がいるなら使う」というムーブ、あるいは「中野がいないと機能しないアタック戦略」というものが間違いなく存在する。彼はそういうレベルの存在で、その圧倒的な個性を単なるボーナスで終わらせるほど早稲田首脳陣は雑なプランニングはしないはずだ。

俺があの試合で一番感じたのは、中野を意図的にショートサイドで機能させるシークエンスだ。そして、そこにNo.8の丸尾をセットで配置する。あれは明らかに意図を持って仕掛けた戦略的なプレーだったはずだ。結果的に、早稲田大が挙げたトライの最初の3つはいずれも中野がキーファクターになっていた。つまり、早稲田が前半から流れを掴んだ要因は、特別な選手が戻ってきたというだけでなく、「特別な選手にどこで特別な仕事をさせるか」を考え抜いていたことにあったのだと、俺としては思っている。

神戸製鋼vsサントリーの一戦に戻ろう。それでもケレビはやはり世界屈指のCTBであり、テレビ越しにも強烈な存在感とオーラがあった。個のプレーヤーとしてのパフォーマンスは、本当に素晴らしいと思う。でも、例えばワイド展開の中でケレビをカットして大外にボールを動かすようなシーンを見た時に、ケレビの圧力がDFのスライドを遅らせて、そこを鋭く外側のランナーが切り裂く形は見事だと思う一方、その後のラックにケレビがコミットした後、そのままライン際にケレビを残して逆サイドにボールが大きく振られていくシークエンスを眺めていると、ちょっと勿体ない気がしてしまったのも事実だ。例えば、そこからまたアタック・ディレクションを切り替えてショートサイドでケレビを使うようなオプションがあっても良かったのかなと、俺としては思っている。その程度のことで大きく崩れるほど神戸のディフェンスは脆くはないけれど、でも、どのレベルであってもある程度の普遍性を持った事実というのはあるものだ。特別な選手に特別な仕事をできる場を与えることができれば、相手にとっては常に脅威なのだから。