Monday, January 27, 2020

日野の戦い - ウィニング・カルチャーのために

昨日に引き続いて、トップリーグ第3節。
日野自動車vsトヨタ自動車のことも書いておきたい。

ファイナルスコアは31-61。地力に勝るトヨタが後半の40分で一気にギアを上げて日野を退けた。1人挙げるならば、やはりFBのウィリー・ルルー。素晴らしいパフォーマンスだった。人によって見方は異なるかもしれないが、俺が個人的に素晴らしいと感じるのは球持ちの長さと、そして球離れの良さだ。一見すると相反する特性なのだが、この2つを共存させられるBKプレーヤーというのは、例外なく良い選手だ。ランニングコースと緩急に常に判断と工夫があり、最終的なチョイスの瞬間を人よりも0.5秒引き延ばすことができる。このわずか0.5秒の価値は、ある程度のレベルでラグビーをしてきた人間であれば誰もが理解するはずだ。藤島大さんだったらこう書くかもしれない。
"ラグビーの本当の楽しさを知りたければ、ルルーの隣を走ればいい" なんてね。

とはいえ、本当に書きたいのはトヨタではなく、日野の方だ。この日の日野自動車を見ていて、チームが成長するプロセスのことを思ったからだ。まだ時間はかかるかもしれないけれど、今の日野は非常に重要な階段を越えようとしているのではないか。いや、階段というよりもむしろ崖というべきなのかもしれないが、とにかくStep by Stepでチーム強化を進めていく先に、一度どこかで大きく飛び越えないといけない断崖のようなものがある。そして現実は常に冷酷で、相当数のチームはこの断崖を前にして足が止まる。あるいは、飛び越える準備を完遂する覚悟さえ持てずに退却してしまう。でも、日野自動車は思い切り向き合っていこうとしているように感じられて、個人的には心を掴まれた。

日野のスターターは錚々たる顔ぶれだ。久富雄一。浅原拓真。北川俊澄。佐々木隆道。堀江恭佑。リザーブにも木津武士や中園真司がいる。彼らの特徴は何か。彼らが日野に持ち込み、更にはチームカルチャーの根幹部分に埋め込もうとしているものは何か。部外者の俺が断言するのも気が引けるが、突き詰めてしまえば、解は1つしかないはずだ。そう、「ウィニング・カルチャー」以外にあり得ない。彼らが年齢的にピークを越えつつあるとしても、今でも日野というチームで輝きを放っているのは、彼らは「勝つための道筋」を経験的に知っていて、そのビジョンを胸に「勝つための戦い」をしているからだ。トヨタ相手に14-19で折り返した前半40分が示した最大の価値はその点にあると、俺は思っている。

トップリーグでプレーする機会を勝ち取る人間というのは、例外なく身体能力に優れたアスリートだ。大学卒業までのラグビーキャリアにおいても、基本的に勝ち続けてきた人間が多い。でも、そういう人間でもどこかで壁にぶつかる。「負けたくて試合してるヤツなんていない」と言葉で語るのは簡単だが、このレベルの人間たちでさえ、本当の意味で「負けない心」を失うことなく戦い続けられる選手ばかりではないのが現実だ。戦うステージを駆け上がっていくというのは、つまりはそういうことだ。これは自分自身の経験を通して、身をもって学んだことでもある。言葉で繕うことのできない弱さを克服する戦い。それは極めてタフな日常の連続だ。その時に、リーダーや仲間が果たす役割は限りなく大きい。「自分のポテンシャルをムダに捨てるんじゃねえよ」とストレートに言ってくれるリーダーの存在は、絶対にチームを変えていく。1人だけで戦い切れるほど、トップリーグが簡単なリーグではないのは明らかだ。これも、IBMラグビー部が俺に教えてくれたことの1つだ。

日野は勝つためのラグビーをした。佐々木隆道のプレーはウィニング・カルチャーを持つリーダーの生き様そのものだった。それでも今は、前半40分かもしれない。そして、今シーズンのスターターを占める多くのメンバーは、いずれ若手の台頭と共に出番を減らしていくことになるのかもしれない。でもそれは、ウィニング・カルチャーを埋め込むために必要な時間なのかなという気がする。そして俺としては、そうやって勝負し続けるチームも、個人も、基本的に大好きだ。

戦う場所があるというのは、それだけで幸福だ。
その幸福の意味を知っているから、彼らは必死で戦うのだと思う。