Sunday, January 26, 2020

特別な存在について - 神戸製鋼vsサントリー

今、トップリーグが本当に面白い。
開幕からの3節で幾つかの試合を見ているが、総じて熱戦が多く、レベルも明らかに上がってきている。各チームにインターナショナルレベルの選手がこれほど充実してくると、見所は尽きることがなく、どの試合を見ていても心を震わせるものがある。サンウルブズもこれから2020シーズンの舞台に臨むことになるが、ラグビーを愛するものとしてはどちらも目が離せない。ここから先が本当に楽しみだ。

ところで、この週末に行われた神戸製鋼vsサントリーを見ていて、個人的に感じたことを書いてみたい。
試合自体は事前に予想された通り非常にハイレベルの攻防となったが、結果的には昨年度覇者の神戸製鋼が見事なゲームマネジメントを見せて、勝利を手繰り寄せた。もうこのレベルに来ると、特定の1つの要素でゲーム全体を語ることなど不可能なのだけれど、印象的だったのは大駒の機能だ。具体的に言えば、神戸にはブロディ・レタリック、サントリーにはサム・ケレビという圧倒的存在がいるのだけれど、チームの中での機能と役割を考えた時に、ある意味では対照的に感じる部分があった。

レタリックは、特にこの日はパスで魅せていた。破壊力のあるキャリーは間違いなく特別な武器なのだが、このゲームでレタリックが示した凄さは単純な突破力というよりも、もっとベーシックな部分にあった。例えばポジショニングの速さや、プレッシャー下でもスモールゲインを確実に獲得してくれる信頼感。そして何よりも判断の正確性。相手からすれば「レタリックのマークは絶対に外す訳にはいかない」という状況の中で、こうした個人スキルの高さが遺憾なく発揮されて、その結果として周囲のプレーヤーが存分に活かされているような印象だった。

一方のケレビ。大きな構造で言えば、ケレビにも同様の部分があり、グラウンド中央のワイドスペースでボールを受ければDFは1枚ではとても止まらない。その結果、ケレビをマークするディフェンダーの両隣にもプレッシャーがかかって、どうしてもDFラインの中に部分的な偏りが生まれてしまう。そこにボールを運んでゲインを切っていくサントリーのスタイルは、有効に機能していたと思う。例えば、この日WTBの中靍が幾度となく見せた快走を生んだ背景には、間違いなくインサイドのケレビの存在感があったはずだ。でも、俺としては少々惜しい感じがした。スコアに直接繋がるポテンシャルを持った形でケレビ自身が使われることは、このゲームでは殆どなかったからだ。実際には、この日のサントリーが本当に必要としていたのは、神戸の厚いディフェンスを切り崩してスコアまで持っていけるランナーであり、その1st Choiceは間違いなくケレビだったと思うのだけれど。

この観点で言うと、個人的に思い出されるのは、先日の大学ラグビー選手権決勝の構造だ。もちろんトップリーグ、それも神戸製鋼やサントリーのレベルとは根本的に異なるので一概に比較はできないが、あの試合で早稲田大が見せたCTB中野の使い方は非常に興味深いものだった。中野の破壊力は間違いなく大学ラグビーでは傑出していて、彼が大学選手権の準決勝から復帰してきたのは早稲田にとって決定的に重要なファクターだったはずだ。アシスタントコーチの後藤翔太さんはRugby Japan 365のコラムの中で「(中野の復帰は)確かに大きかったのですが、それはボーナスという感じです。チーム全体のアタックのスピードが上がったところに、(中野)将伍があのサイズとパワーで入って行くから破壊力が余計に上がった。」と語っているけれど、どう考えてもメディア向けの発言だろう。「中野がいるなら使う」というムーブ、あるいは「中野がいないと機能しないアタック戦略」というものが間違いなく存在する。彼はそういうレベルの存在で、その圧倒的な個性を単なるボーナスで終わらせるほど早稲田首脳陣は雑なプランニングはしないはずだ。

俺があの試合で一番感じたのは、中野を意図的にショートサイドで機能させるシークエンスだ。そして、そこにNo.8の丸尾をセットで配置する。あれは明らかに意図を持って仕掛けた戦略的なプレーだったはずだ。結果的に、早稲田大が挙げたトライの最初の3つはいずれも中野がキーファクターになっていた。つまり、早稲田が前半から流れを掴んだ要因は、特別な選手が戻ってきたというだけでなく、「特別な選手にどこで特別な仕事をさせるか」を考え抜いていたことにあったのだと、俺としては思っている。

神戸製鋼vsサントリーの一戦に戻ろう。それでもケレビはやはり世界屈指のCTBであり、テレビ越しにも強烈な存在感とオーラがあった。個のプレーヤーとしてのパフォーマンスは、本当に素晴らしいと思う。でも、例えばワイド展開の中でケレビをカットして大外にボールを動かすようなシーンを見た時に、ケレビの圧力がDFのスライドを遅らせて、そこを鋭く外側のランナーが切り裂く形は見事だと思う一方、その後のラックにケレビがコミットした後、そのままライン際にケレビを残して逆サイドにボールが大きく振られていくシークエンスを眺めていると、ちょっと勿体ない気がしてしまったのも事実だ。例えば、そこからまたアタック・ディレクションを切り替えてショートサイドでケレビを使うようなオプションがあっても良かったのかなと、俺としては思っている。その程度のことで大きく崩れるほど神戸のディフェンスは脆くはないけれど、でも、どのレベルであってもある程度の普遍性を持った事実というのはあるものだ。特別な選手に特別な仕事をできる場を与えることができれば、相手にとっては常に脅威なのだから。