藻谷浩介『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』 (角川oneテーマ21)、読了。
このblogを更新するのも随分久しぶりだけれど、少し整理しておこうかなと。
論旨は極めてシンプルだ。
・人口ピラミッドから明らかなように、日本は生産年齢人口の急激な減少に直面している。
・出産適齢期の女性の数自体が減少している為、出生率の多少の向上では、問題は解消しない。
・生産年齢人口の減少は、日本国内における総消費の減少に直結している。
・1,400兆円とも言われる日本国内の個人金融資産のうち、1,000兆円以上が65歳以上に集中している。
・この世代の最優先課題は、医療・介護等の備えであり、貯蓄はある意味でコールオプションのようなものだ。
・こうした「投資されない資産」は、どこかで毀損することも考慮しなければならない。
・現在の日本国内のデフレとは、内需の中核を担う生産年齢層の減少に伴う供給過剰が主因である。
これに対する処方箋として、論理的には以下3つの観点で改善を図る他ないというのが著者の立場だ。
・生産年齢人口の減少を、可能な限り緩やかなものにする。
・生産年齢人口に該当する世代の個人所得総額を維持し、更には増加させる。
・生産年齢人口および高齢者による個人消費の総額を維持し、更には増加させる。
そして具体的に、①高齢富裕層から若者への所得移転、②女性の社会参加・就労促進、③外国人観光客・短期定住客の受入という3つの施策へと議論が展開される。
非常に分かりやすく、かつ妥当な主張ではないかと思う。
人口オーナスが、日本が直面している最重要課題であることは、疑問を差し挟む余地もない。
ただ一点だけ、読んでいて気になったことがある。こうして提示された施策は、マクロ的にみれば合理的なのだけれど、ミクロでみれば不合理なのではないか、少なくとも不合理に見えてしまうのではないか、ということだ。
少々不正確な記述になってしまうけれど、例えば社員の給与総額を現状維持するよう努めるべきだ、という主張があるとする。人口オーナスの時代においては、新たに生産年齢に差し掛かる世代の総人口よりも、常に退職世代の総人口の方が多い状況が続くため、給与総額がキープされていれば、1人あたり給与は増大することになる。こうした取り組みによって、内需拡大を図っていくべきだ、というのが1つの考え方として提示されている。非正規雇用の低賃金労働者を増加させて、社員の給与総額を低減させていけば、結局はその企業の国内売上高も減少せざるを得ないのだと。
構造としては正しいのだけれど、ゲーム理論的に考えると、こういう施策は、国内全産業・全企業が足並みを揃えて対応する時に、初めて合理的と判断されるのではないだろうか。そして、結局のところ囚人のジレンマに陥って、日本全体が緩やかな停滞を続けていくのではないだろうか。
企業は、あくまでも企業としての合理性に基づいて行動するのだと思う。
今問われているのは、それが必ずしも国家の合理性と整合しない時に、日本人・日本社会はどう舵を切るのか、ということではないかと感じている。そこで求められるのは、リーダーシップかもしれないし、あるいは社会形態そのものの変革だったりするのかもしれない。その意味では、著者の思索の「その先」にこそ、本当は興味があるところです。