Wednesday, November 21, 2012

『世界で勝たなければ意味がない』

世界で勝たなければ意味がない―日本ラグビー再燃のシナリオ (NHK出版新書 392)


  • 作者: 岩渕 健輔
  • 出版社: NHK出版
  • 発売日: 2012/11/7



  • 私は心の中で、7年後の長期休暇を予約している。
    理由はもちろん、オリンピック、サッカーW杯に続いて世界で3番目に規模の大きい国際的なスポーツイベントが、ここ日本で開催されるからだ。

    そう、2019年はラグビーワールドカップ日本大会なのだ。

    日本ではあまり知られていないが、ラグビーにもワールドカップがある。1987年の第1回大会に始まって、昨年(2011年)のニュージーランド大会まで計7回の歴史を持つこの名誉ある大会は、世界でもトップクラスの集客力と注目度を兼ねた最高の舞台だ。そして日本代表(ジャパン)は、この7大会すべてに出場しており、IRB(国際ラグビーボード)が発表する世界ランキングでも16位に名を連ねている。(2012年10月1日現在)

    こうしてみると、サッカー日本代表よりも国際的にはステータスが高いような気もしてしまうが、残念ながらそうではない。ワールドカップ7大会連続出場といっても、日本の通算成績は1勝2分21敗。1991年の第2回大会で格下のジンバブエに勝利して以来、もう20年間ワールドカップでは勝利していない。第3回大会では、世界最強集団ニュージーランド代表(通称オールブラックス)を相手に17-145の歴史的惨敗も喫している。IRB世界ランキング16位といっても、現実はとてつもなく厳しい。

    そんな日本が2019年、世界の強豪国をホームに招聘して戦う。それは日本ラグビー再生のためのラストチャンス。でも現時点では、残念ながら日本国内のラグビー熱が高まってきているとは言い難い。国内リーグのレベルは年々向上しており、世界的なスター選手の来日も増えてきた。インターナショナルのプレーを生で観られる最高の環境が揃ってきたのに、ラグビーの注目度は思うように上がってきていない。要するに、日本ラグビーは今、崖っぷちの状況に立たされているのだ。

    本書の著者である岩渕健輔は、そんなラグビー日本代表のGMだ。現場を監督するヘッドコーチとは異なり、日本代表の強化に向けた組織のマネジメント全般を、彼が担っている。岩渕といえば、現役時代はセンス溢れるパスワークとランニングで何度もスタジアムを沸かせた名選手だ。青山学院大学を卒業後、オックスフォード大学留学を経て、イングランドのプロリーグでもプレーした国際派としても知られている。今、日本ラグビーの未来を託すべきGMとして、彼ほどの適任者はいないだろう。

    本書の中で岩渕は、多くの問題提起をしている。選手自身のスピリットや国際経験もそうだが、例えば科学的トレーニング手法の導入、(大学ラグビーを含む)国内リーグの変革、さらには代表を支えるスタッフの能力向上や、草の根レベルの底上げに向けた普及活動まで、日本ラグビー界が変えていかなければならないことは、本当に多岐に渡っている。GMの担うべき責任は、極めて大きい。本書からは、岩渕のそんな危機感が読み取れるはずだ。

    本書の副題には「日本ラグビー再燃のシナリオ」とあるが、実際にはそこまで体系的な記述でもないのが正直なところだ。でも、それは決して本書の問題ではない。体系的でなくても、とにかく可能性のあることは全て挑戦してみるしかないというのが、きっと日本ラグビーの現状なのだ。岩渕健輔は今、その事実を捉えているからこそ、本書が必ずしも体系的なシナリオではないのかもしれない。

    まずは2015年のワールドカップに向けて。日本ラグビーの躍進を、心から応援したい。

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    そんな日本ラグビー界においても、過去には世界にその名を轟かせた名将達がいた。
    彼らの言葉には、もはやラグビーを超えた真実がある。そんな人間の物語を、2つ紹介しておきたい。

    知と熱―日本ラグビーの変革者・大西鐵之祐 文春文庫


  • 作者: 藤島 大
  • 出版社: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/11/8


  • まずは大西鐵之祐。日本ラグビーを世界に知らしめた大なる名監督だ。類稀なる慧眼。徹頭徹尾、勝負師であり続ける胆力。巧みな人心掌握術。今読み返しても、大西鐵之祐が残したものは新しい。藤島大の文章も、相変わらず美しい。

    勝つことのみが善である - 宿澤広朗 全戦全勝の哲学


  • 作者: 永田 洋光
  • 出版社: ぴあ; 四六版
  • 発売日: 2007/7/7


  • もう1人の天才、宿沢広朗。ラグビー日本代表監督として、強豪スコットランドを破ったその手腕も見事だが、勤務先の住友銀行(現三井住友銀行)でも頭取候補に名を連ねるほどのバンカーだった。今、日本ラグビーはあの日の宿沢を追いかけているのかもしれない。