Monday, February 25, 2013
『良いことに上限はないんだ』
東京理科大ソフトボール部の丸山総監督による著作。
体育推薦もなく、学業との両立が非常に厳しい理科系大学ながら、全国大会にも再三登場するような強豪チームへと成長した東京理科大。その秘訣として本書で語られているのは、ものすごく基本的なことだった。例えば、無遅刻、無欠席。あるいは、全力疾走。礼儀やマナー。そして仲間と自分に対する責任。基本というのは「人としての基本」であって、それこそが最も重要なのだというスタンスが貫かれている。(ちなみにラグビーでも、昨今の帝京大がまさに同じアプローチでチーム作りをしていて、見事なまでの結果を残している。)
本書には、技術を極めるためのグラウンドレベルの工夫であったり、ソフトボールという競技に対する戦略的なアプローチであったり、そういった類の記述は殆どない。でも、きっと現場には様々あるはずなんだ。スポーツの世界でチャンピオンシップを目指す上で、「人としての基本」は絶対的な必要条件だというのはおそらく間違いないけれど、ただ十分条件ではないと思う。技術がないと、やはり勝てない。その意味では、東京理科大という「限られたリソースでの戦い」が宿命づけられたチームにおける技術へのこだわりなども、本当は興味をそそられるところだ。
ただ、「必要条件」に対するこだわりは、もう半端なレベルではない。言葉はあっても実行が伴っていない組織、ちょっとした逸脱を見過ごしてしまう甘さを残した組織が多々ある中で、丸山総監督は一切妥協しない。本当に、言葉通りの意味で「一切」妥協しないのだ。特に大学スポーツだと、これが完遂できるだけでチームは大化けするのだなあと、素直に思える1冊だ。
チームマネジメントの観点で興味深かったのは、練習の運営方式。全体練習は週2回。それ以外は、授業がない空きのコマを利用して、3人程度のメンバーで、少人数の個別練習を計画的に組んでいるそうだ。それ以外にも、完全な個人練習もあるので、練習自体が3つのパターンに分けて捉えられていることになる。更に、これらを「権利練習A/B/C」と呼んでいるそうだ。練習は義務ではなくて、権利。まさにその通りだと、心から納得してしまった。ちなみに、こうした独創的な取り組みも、学部別キャンパスや実験・レポートの負荷といった(ソフトボール部からすれば)「リソースの制約」があって、必要に迫られて生まれたものだというのも面白い。そして、この点にこそ、多くの人にとって、貴重なヒントが隠されているのかもしれない。ごく一部のトップレベルを除けば、日本国内に存在するほぼ全てのスポーツチームはリソースに制約を抱えながら活動しているのだから。