「誰も興味なさそうな曲を今日も爆音で流すわ」
ー チャラン・ポ・ランタン『最高』(アルバム『ドロン・ド・ロンド』収録)
初めてチャラン・ポ・ランタンの曲を聴いたのは、ほんの2ヶ月ほど前のことです。子どもが通っている小学校のチャリティーコンサート。小さな体育館でのライブという、ある意味で特別感に包まれた感じで。
素晴らしく伸びやかな歌声の妹/ももと、アコーディオン弾きの姉/小春による姉妹ユニットで、非常に独特な世界観で幅広く活動されている、ということも2ヶ月前までは全く知りませんでした。
皆さんは、聴いたことがありますか。
ライブなので合間にMCがあるのですが、なかなか激しい幼少期だったそうで、子ども達に冗談めかして話してくれた自分たちの小学生時代の思い出が、まあワイルドなんです。特にアコーディオンを担当する姉の小春さんは、子どもの頃はとにかく「先に足が出るタイプ」で、学校の友達を毎日のように蹴り飛ばして、学校の先生たちにも悪態ばかりついていたそうです。当時、小春さんの最初の担任だったのが今の校長先生なのですが、カガセン(香川先生)の愛称で誰からも愛されているような優しい先生で、小春さんも言ってました。「カガセン、正直大変だったでしょ」って(笑)。
ただ、彼女には救いがありました。
小学校1年生の頃、親に連れられて見に行ったサーカスで初めて目にした蛇腹の楽器に魅了された小春さんは、お母さんにお願いしたそうです。「あの楽器が欲しい」って。
そして、その年のクリスマス。憧れのアコーディオンは、本当に彼女の元に届きます。
「7歳のクリスマスにサンタさんが(アコーディオンを)届けてくれて、その日から今日まで、本当に毎日弾いてます。」
トークタイムにそう語っていたのが、ものすごく印象的でした。本当に好きなことに、心の向くまま思い切り没頭する時間というのは、きっと自分を安心して解放できる大切なひとときでもあったんですね。
ちなみに、7歳のクリスマスから1日も欠かさず弾き続けた日々が奏でるアコーディオンの音色は、もう本当に素晴らしいものでした。
とはいえ、荒れまくって友達を蹴り飛ばしていた少女がアコーディオンに救われたとして、「それって美談なのか」という声も聞こえてきそうです。当時蹴られた友達にしてみれば、迷惑でしかなかったはずでしょ、と。心の葛藤を誰彼構わずぶつけた日々を受け入れてくれた学校や家庭があって、彼女は初めて生かされたのかもしれないけれど、1人の個性のために「周囲の我慢」を前提とするような考え方には、違和感を持つ人も少なくないと思います。
これに対して、興味深いアプローチをされている先生がいます。
木村泰子さん。いわゆるインクルーシブ教育を掲げる大阪市立大空小学校の初代校長先生です。
大空小学校の取り組みには非常に心を打たれるものが多々あるのですが、例えば教室の中でじっとしていられず、机をガタガタと揺らして騒ぐ子どもがいたとして、その子は何かに困っているからガタガタと机を揺らすのだと、木村さんは考えるそうです。周囲の子にとっては授業の邪魔だからと排除するのではなく、その子の「困りごと」をどうすれば取り除いてあげられるかを考える。
更には、そうして友達の困りごとに想像力を働かせるという行為こそが、周囲の子ども達を成長させるのだと、木村さんは言います。ワガママでも身勝手でもなくて、困ってるんだよと。その困りごとの背景は、時に本人も自覚していなかったり、学校以外の社会や家庭にrootがあったりして、周囲の人間には理解しづらいからこそ、想像力が大切なんだよと。
そんな学校で育った子ども達は、その子のガタガタが始まると、皆がさっと机を離して距離を取るんだそうです。それに対して、木村先生が「そんなふうにして距離を取ってその子から離れたら、かわいそうじゃないの?」と問いかけると、子ども達は即座にこう切り返してきたといいます。
「先生、全然分かってないな。アイツ、困ってんねん。困って暴れてモノ投げて、それが俺らに当たって誰かが怪我でもしたら、アイツ、余計に困るやろ。だから、離れてやらなあかんねん。」
なんか仕事と全く関係ない話になってしまいましたが、最近そんなことばかり考えています。
優しさというのは、結局何なのかなとか。好きなことに思い切りチャレンジして、自分の意思を全力で表現するのがワガママだとしたら、ワガママのない社会って面白いのかなとか。
もう2019年も8月に入って、いよいよ本格的に夏休みシーズンですが、心身はゆっくり休めながら、個人的にはこのあたりが夏休みの宿題になりそうです。会社組織であっても、やっぱり優しさがベースにあってほしいなと思いますしね。