Sunday, April 09, 2006

背伸びしない

久しぶりに劇場で映画を観た。
三谷幸喜監督の最新作『THE有頂天ホテル』ね。

大晦日の夜、あるホテルで繰り広げられる様々な人間模様をコメディタッチで描いた作品。それぞれの事情やバックグラウンドを持つ人間達が、「ホテル」という舞台の中で、意図せざる奇妙な偶然の流れに翻弄されながら複雑に絡み合っていく。誰かの行為が、本人の与り知らないところで別の誰かの救いとなったり、あるいは他人の心の葛藤に向き合うことで、自分自身の心の葛藤が浮き彫りにされたり、そうやって織り成されていく小さなドラマが全編に渡ってうまく散りばめられている。

信頼できる後輩の評価とはちょっと違うのだけれど、個人的には良い映画だと思う。
この映画のメッセージは極めてシンプルなもので、つまりは「自分に嘘をつかない」ということが全てだ。「嘘」と言うと言い過ぎかも知れないけれど、自分自身の思いに正面から向き合おうとしない、ということがある種の嘘であるならば、概ねこのフレーズにエッセンスは集約されると思う。

それぞれの登場人物が抱える思いや葛藤は異なるけれど、皆どこかで自分を押し隠している。背伸びをしている人間もいれば、着飾る人間もいる。卑屈になるやつや、自分の弱さを認められないやつもいる。事情は皆違う。当然ながら、それぞれにとっての救いは個人的なもので、誰しもに共通する救いが提示される訳ではない。夢に向かう自信を取り戻して救いを得る人間がいれば、夢の次に向かった世界で真摯に生きてきたその生き方を素直に認められることで救いを得る人間もいる。
そういう世界観は、悪くないと思うんだ。

ホテルという舞台設定。
日常の生活空間とは違う、ちょっと背伸びした世界。それでいて、家という日常空間にいる時のように安らげる場所であって欲しいと願うホテルマンの「おかえりなさいませ」という一言が、背伸びのない世界への肯定へと導いていく。
そして、コメディ。
他人の背伸びは、傍から見れば思わず笑ってしまうな滑稽なものだったりもする。各人各様の思いの中から生まれる「背伸びした自分」というものを、コメディの形式で優しく笑い飛ばすことで、人間らしさを演出していくような感覚。

というとちょっと言い過ぎではあるけれど、人間味ある良い映画だと思います。