きっかけは、実はLinkedInでした。
昨年秋に何気なくWallを流し読みしていたら、どなたか忘れましたがある社員がシェアしていたWebinarの案内がふと目に留まったんです。
『不動産ビッグデータをAutoAIでお手軽分析してみた』という1時間のイベントで、不動産ビッグデータを取り扱っているTORUS社に協力いただいて、AutoAIで簡易的にデータ分析の導入を紹介するものだったのですが、AutoAIをお客様にも紹介していながら、どの程度のことが実際に可能なのかをクリアに理解できていなかった私は、個人的に興味が沸々と湧いてきて、すぐに参加登録をしたんです。
そうしたら、これがもう本当に面白くて。
TORUSが扱う不動産謄本というのはオープンデータで、取得には多少のコストを要するものの、誰でもアクセスできる情報なのですが、それを網羅的かつヒストリカルに蓄積していくと、想像も及ばないほど幅広いコンテキストで、極めて具体的かつ多様なインサイトを導出できるのだという事実を知って、わずか1時間のWebinarが驚きの連続だったんです。このイベントでは、TORUSの創業者でもある木村社長が自ら登記簿謄本のリアルな活用シーンをデモで紹介されていて、Startupの機動力とダイナミズムも伝わってくるんですよね。やはり刺激を受けずにはいられない。
その頃の私は、担当するお客様との間で、「データビジネス」という切り口でのディスカッションにまさに着手していました。断っておきますが、これはお客様が自らの言葉で検討テーマとして挙げられたもので、私が仕掛けたものではありません。こちらがプロアクティブにコンセプト・セリングをかけていって、お客様が明確には意識されていなかった潜在的なニーズを喚起できたのであれば格好良いのですが、現実は正反対です。私には特段の知見もなく、ただ何かご提案できないかなと思いながら社内のSMEを頼って、何度か通っていた程度でしかないんですよね。
そうした中で、年の瀬も迫った頃のお客様コール終了後、ふと思い当たります。
TORUS様を引き合わせてみたいなと。
金融業におけるデータ利活用のビジネス的な見識もなければ、不動産という全くの別業界にあるBAUの課題やニーズ、あるいは潜在的なポテンシャルについても、自分自身では理解が及ばないことばかりで、
次の一手を見出すのに苦慮していた私は、TORUS様の専門性と業界理解を頼りながら、金融×不動産という文脈でなにかが生まれたりしないかなと、ある意味では無責任に考えていました。オチを明確にイメージできないままで・・・。
というのは、ちょっと長すぎる導入なのですが、本当に書きたいことはその先なんです。つい先日、TORUS木村社長に実際に登壇いただいて、お客様とのディスカッションを行ったのですが、非常にフランクかつ闊達な議論が展開する中で、お客様がふとした拍子におっしゃったんです。
「私たちは決済データを持っているが、顧客の資産の全貌は見られないんです。」
直後、1拍ほどの小さな間を置いて、木村社長が応じます。
その言葉に私は感銘を受けました。
「もし、それが見られたら・・・?」
木村社長はTORUSを創業された実業家としての知識と経験を振りかざすこともなければ、目の前のお客様の言葉を大上段の立場から論評することもなく、わずか一言の「問い」で返したんです。
その後のお客様との会話がより一層の広がりを見せたのは、言うまでもありません。
誰もチャレンジしたことのない不動産ビッグデータという事業に打って出て、自ら潜在マーケットを開拓された木村社長にとって、それは極めて自然なことだったのかもしれません。
従来は存在さえしなかった、少なくとも可視化されていなかったマーケットニーズを掘り起こしたのは、必ずしも謄本データというキラーコンテンツだけではなく、可能性に目を向ける「問い」の力もあったのではないでしょうか。
今、IBMは変革の只中にあって、Technology Skillの重要性がより一層高まってきていますよね。「所属や立場によらず、誰もがテクノロジーを語れ」と。
一方で、私自身の個人的な思いを素直に吐露するならば、語る能力、プレゼンテーションのスキルばかりに意識が傾倒している嫌いもあるのではないかなと、常々感じてもいます。
本当に大切なのは、むしろ聴くことなのかもしれないのに。良い「問い」をお客様に投げかけることができた瞬間に、初めてお客様は本当の意味で「自らの言葉」を語ってくれるのかもしれないのに、と。
そんな訳で、ここ最近、私が最も大切にしているキラークエスチョンはただ1つです。
「自分はきちんと問えているだろうか」
幼い頃から各方面で「口から産まれてきた男」と呼ばれて育ったようなAKYの人間の戯言ではあるんですけどね。