Sunday, February 05, 2006

40点の差

2006年2月4日(土)
第43回日本ラグビーフットボール選手権大会、1回戦。
タマリバクラブ 7-47 早稲田大学(14:00 K.O. @秩父宮ラグビー場)

ずっと目標にしてきた試合は、あっという間に終わってしまった。
試合後に残ったものは、40点という点差と、自分への悔しさだった。

早稲田戦を迎えるまでの1週間は、素晴らしいものだった。
何人かの先輩や仲間がメッセージをくれた。
それまで個人的なメールをもらったことなどなかった人達が、メールをくれた。
社会人ラグビーで共にプレーした先輩も、激励の言葉をくれた。
一緒に1年間を戦ったメンバーからの決意表明が次々とメールボックスを埋めていき、業務時間中にも関わらず、何度も泣きそうになった。

決意表明。
考える必要もなく、書くことは決まった。
日本選手権の舞台にタマリバが辿り着いたのは、今シーズンの公式戦を勝ち抜いたメンバーだけの力ではない。チーム創設以来の数年間を支え続けた人達の存在と、日々の練習を共にした多くの仲間の存在があって初めて、この場所は用意されたのだという当然の事実へと、自然に気持ちが向かっていった。
だから、そういう人達の思いに恥じないプレーをしなければいけない。
自分に与えられた責任を果たして、最高のパフォーマンスをしてみせる。
12番での出場が決まった時、最初に思ったのは、そういうことだった。


後半34分。交替が告げられ、ベンチに戻った。
先輩が渡してくれたベンチウォーマーに袖を通しながら、グラウンドを眺める。
既に40点差がついていた。
そして暫くして試合終了の笛が鳴り、今シーズンのタマリバの挑戦は終わった。

悔しかった。
単純なことで、まだ自分自身が足りていないことを思い知らされた。
パスもタックルも、スピードもフィットネスも、自分に対する自信もきっと、まだ足りていなかったのだと思う。先輩に教えてもらった「プレー責任」というやつを、日本選手権の舞台で完遂するだけの土台が、現時点のおれには、まだ足りなかった。
もっと練習するしかないね。自分自身が、もっと成長するしかない。

タマリバクラブとしても、次のシーズンはこの40点がターゲットになるのだと思う。
これからまた1年間かけて、この差を一歩ずつ埋めていくしかないね。
決して小さくはない40点の差を埋める為の日々を、これからまた始めます。



以下、追伸。

試合を終えた翌日、パートナーが録画していたTV東京の『美の巨人たち』という番組を観た。河合寛次郎という陶工を扱った内容で、相変わらず寛次郎の作品は素晴らしいものばかりだったのだけれど、それ以上におれの心に留まったのは、寛次郎の美への態度そのものだった。

寛次郎が若い頃に目指していたのは、中国古来の陶磁器の美だった。寛次郎は、目標とする中国や朝鮮の陶磁の手法に独自の感性を織り込み、斬新な作品を創り上げていく。それは陶芸界に大きな衝撃を与え、結果的に寛次郎は若くして天才の評価を得ることになる。

しかし、その一方で寛次郎自身は、奇妙な思いに駆られていくことになる。結局は先達の模倣ではないのか、中国の古典美をどこまで追い求めても、それを越える作品には辿り着かないのではないか、と。
そして葛藤の末に3年を経た寛次郎は、別の地平へと行き着くことになる。

きっかけは、どこかの展覧会で見かけた茶碗だった。生活の中で使う為に、機能的に形を整えただけのものが、なお美しい。そのことに衝撃を受けた寛次郎は、生活の中に深く根を張った美、即ち「民藝」の世界へと傾倒していったんだ。
美を追い求めず、それでいて美しい、という境地。有名の美を求めず、無名の美を追求し続け、生涯に渡って無名であろうとしたが、その才能ゆえに無名たりえなかった天才。それが、河合寛次郎という人間だったそうだ。


何故こんなことを書いているのか。
それは、タマリバの今後のことを、少しだけ重ね合わせてしまったからだ。
思いつきの域を出ないレベルだけれど。

タマリバは、どのような方向性で今後「強さ」を目指していくのだろう。
例えば、経験と才能の豊かな選手に声を掛けて、良い人材を集める。
あるいは、全体での練習時間をもっと増やしていく。
そういった努力は惜しむべきではないと思うし、強くなる為には不可欠だと思う。
ただ、その方向性だけで突き進んだ時に待っているのは、人材と練習量では、どこまで行っても大学や社会人の強豪には勝てない、という事実かもしれない。大学ラグビーや社会人のトップリーグは、全国から選ばれた才能ある選手達が、ラグビーの為に生活の全ての時間を捧げる世界だからね。

クラブチームの可能性を、どこに見出していけばいいのだろう。
どこかにあるはずなんだ。
寛次郎が「美」の地平を変えてしまったようなことを、「強さ」でも出来ないだろうか。
もちろん簡単には出来ないだろうけれど、それでも、クラブチームゆえの「強さ」というエッセンスは、どこかに成立し得る地平があると思うんだよね。

その具体的なビジョンは全然ないので、あくまで希望に過ぎないけれど。