Monday, February 20, 2006

早稲田の挑戦

タマリバの同期を誘って、秩父宮ラグビー場に足を運んだ。
日本選手権準決勝、東芝府中 vs 早稲田大学。

先週末の2回戦で、トップリーグ4位のトヨタ自動車を28-24で破り、学生チームによる18年振りの社会人チーム撃破という快挙を果たした早稲田の更なる挑戦。対する東芝府中は、トップリーグ、マイクロソフトカップを制した社会人の王者であり、特にFWを中心とした激しさと破壊力は圧倒的だ。間違いなく国内最強のチームだろう。

秩父宮のスタンドは満員の観客で埋め尽くされた。
そして、圧倒的多数のファンの声援が早稲田に向けられた。
早稲田のプレーのひとつひとつに歓声とどよめきが起こり、随所に見られた好プレーに対して惜しみない拍手が送られた。
でも、きっと多くの人間は、どこかで早稲田の敗北を予感していた。早稲田の可能性に期待しながら、それでも最後は東芝府中が圧倒するだろうと思っていた。
そして、実際に東芝府中は43-0で早稲田を零封してみせた。
東芝府中は勝つべくして勝った。完勝だった、と言っていいだろう。


ここからは、あくまでおれの私論だ。
異論は当然あると思うけれど、おれの所感を書き残しておきたい。

東芝府中に挑みかかった早稲田の姿には、強く心を打つものがあった。
トヨタ自動車を撃破してみせた先週のゲームとは比較にならない感動があった。

前半の40分間、東芝府中の猛攻を12点に抑えてみせたディフェンス。
サイズ・パワーで劣る集団が、次々に湧き出るように必死のタックルを繰り返す。
鍛え抜かれた狂気のタックル、と言えばいいのか。積み重ねた練習に裏付けられたスキルと能力に自信を持って、そこに、勝利への執念と、ゴールラインを絶対に割らせないという魂が取り憑いたような、凄まじいタックルだった。
中でも特筆すべき選手を挙げるとすれば、内橋、後藤の両LOとWTBの菅野。
内橋、後藤の両LOの仕事量は、本当に凄まじいばかりだった。
あらゆるポイントに彼らの姿があり、仲間が抜かれた時に常にカバーリングしていたのも、やはり彼らだった。上に入るべき時は上に、下に入るべき時は下に、判断力と技術を持ってタックルを使い分け、鍛え上げられたフィジカルの強さを生かして激しいプレーを繰り返していた。そしてWTBの菅野。自分自身の「間合い」を持つ人間の、切れのあるタックル。瞬間的なスピードをもって相手の懐に突き刺さり、幾度となく東芝府中の攻撃を寸断した。

それでも、後半に入ると崩れた。
結果的に43点を奪われ、明日の新聞には「東芝府中、圧勝」の文字が並ぶだろう。
東芝府中、完勝。その通りだ。既に書いた通り、東芝は勝つべくして勝った。
東芝府中には早稲田を上回るフィジカルの強さと自信があり、経験があった。分厚い壁のようなディフェンスラインは大きく崩れることなく、終始ゲームの主導権を握って離さなかった。彼らには社会人王者のプライドと意地があり、なにより自信があった。
それは、紛れもなく、チームとしての「実力の差」だったと思う。

それでも、おれは思うわけです。
それは真実の一端ではあるけれど、もう一端の真実もあるだろうって。

トヨタ自動車に対しては、勝つべくして勝った。
あのゲームは、互角に戦えるだけの実力を備えたチームが、「洗練と徹底」で勝利を掴んだゲームだった。計算され尽くした「挑戦」であり、その体現だった。
今日のゲームは違う。
明確な格上への挑戦であり、計算を越えたところでの勝負だった。その結果が43-0というスコアであり、それが全てかも知れないけれど、そこには確かな光明があった。計算の先に向かう確かな意志に満ちていた。

それは確かに強く心を打つものだったと、おれは思います。
本当に素晴らしいゲームだった。