Sunday, February 26, 2006

壷光る

書きたいことは沢山あったはずなのに、機を逃すと書けないものだね。

もう1週間も前になるけれど、ある美術展に足を向けた。
東京美術倶楽部創立100周年記念「大いなる遺産 美の伝統展」というやつだ。
御成門の駅から歩いてすぐのところにある東京美術倶楽部。恥ずかしながら、おれはその存在すら知らなかったのだけれど、明治40年4月に設立された由緒ある会社のようで、日本の優れた美術品の保存・活用を通じて日本美術の発展に貢献すべく活動してきたそうだ。その東京美術倶楽部が、創立100周年を記念して、国宝を中心とする古美術品や、近代日本絵画の名作を数多く集めた展覧会を開催しているということで、会期終了間際に出掛けていったんだ。

様々な作品があった。
富岡鉄斎、横山大観、上村松園、青木繁、竹久夢二、奥村土牛、岸田劉生。
近代絵画の大御所の名前がずらっと並んでいた。
展示作品はどれも質が高く、内容の濃いものになっていた。正直に言うと、近代日本画というのは、観ていてそれほどおもしろいものだとは思わないけれど、その仕事の繊細さや丁寧さ、あるいは色彩や構図の巧みさといったものが明確に感じ取れる作品が多く、極めて良質の展示内容だったと思う。
印象に残っているものを挙げるならば、三岸好太郎と中川一政。どちらの作家も、その作品を直接目にするのは今回が初めてだった。三岸好太郎の作品「雲の上を飛ぶ蝶」では、そのタイトルの通り、雲海の上に広がる青い空を、色とりどりの蝶が舞っている。絶妙な拡がりを持ったその構成と、舞い飛ぶ蝶々の姿は、どこか人間の想像力の拡がりと自由を暗示しているようでもあった。中川一政の作品は、大胆な筆遣いと色彩で荒々しく描かれた「駒ケ岳」。ごつごつとした駒ケ岳の山肌が力強く描かれ、自然の持つパワーが伝わってくる良い作品だった。

絵画の他にも、多くの展示品が並んでいた。
国宝の絵巻物や陶器、書や屏風も多数あり、全体として見応えのある内容だった。
でもね、その中でも一際輝くものがあったんだ。
ただその作品の為だけに、この展覧会はあったのだと思えるような、そんな作品。

それが「花魚扁壷」と名づけられた河合寛次郎の作品だ。

生まれて初めて自分の目で実際に観た寛次郎の作品は、衝撃的だった。
作品の佇まい、フォルム、釉薬の質感、どれもが素晴らしかった。一目見た瞬間に寛次郎の作品と分かるような独特の雰囲気と洗練された美しさを併せ持つその壷は、本当に黄金色に光っていた。少なくともおれにはそう見えた。
壷にあれほど感動したのは初めてだった。繊細にして素朴。河合寛次郎という人間の魅力が詰まっているようで、その作品を観られたことが本当に嬉しかった。

また寛次郎の作品を観たい。
寛次郎自らが建築・設計し、殆どの家具をデザインし、生涯を終えるまでそこで数々の作品の製作に携わったという建物が京都に今も残され、河合寛次郎記念館として一般に公開されている。
いつか行ってみたい。出来れば近いうちに。