Saturday, March 25, 2006

色を塗る

パートナーに触発されて、カンバスに色を塗ってみた。

画廊で働くうちのパートナーは、自分でも絵を描き溜めている。自宅の一室をアトリエにして、ケントパネルにアクリル絵の具でイメージを描いていくのだけれど、仕事帰りの疲れた身体でも、驚くほどの集中力でいつも机に向かっている。この1年間ほどで、100枚近くの絵を描いているのだから、絵を描くことが本当に好きなのだと思う。
描き続ける中で、彼女の好奇心であったり、描くことへのこだわりは日に日に高まっていて、最近では遂にカンバスに絵を描くようになった。そして、ずっと欲しがっていたイーゼルもようやく買い揃えることが出来て、アトリエとして使っている4畳半の小部屋は、今では完全にアーティスティックな空間となった。

カンバスとイーゼル。
この2つが揃うと、絵筆を持ったことのない人間でも、描いてみたくなるよね。
だから、真っ白なカンバスを1枚だけもらって、やってみることにしたんだ。

断っておくけれど、絵を描いた訳ではないんだ。
真っ白なカンバス全体に、青のアクリル絵の具で色を塗っていっただけだ。
カンバスに絵を描く時には、まず下塗りをして、その上に色を重ねていくそうなのだけれど、おれがやってみたのはその「下塗り」にあたる作業だ。パレットに青の絵の具を落とし、メディウムと少量の水を混ぜ合わせて適度な軟らかさにする。そして、平刷毛で丁寧に延ばしながら、カンバスを塗っていくんだ。

そしたら、思った以上におもしろかった。

カンバスの上で刷毛を滑らせていくだけの作業がこれほど楽しいとは思わなかった。
不思議と心が落ち着いていく。ちょっと大仰な言い方をすると、ある種のカタルシスのような感覚があって非常に心地よく、同時に新鮮な驚きがあった。
やってみるものだね。
ただの下塗りの青だけれど、上手くは描けない。平刷毛を思うように扱うことはとても難しいし、青一色であっても、その濃淡や深みはイメージ通りに作り出せない。それでも、刷毛の動かし方や絵の具の延び具合が生み出す「1点もの」のムラにどこか愛着さえ沸いてきて、自分の気持ちがクリアになっていくような感覚があるんだ。

ただそれだけのことが楽しいのだから、数多くの色を自在に重ね併せて、自分の中のイメージを具現化していく作業というのは、きっとどこか特別な感覚なのだろう。
残念ながらおれにその能力はないけれど、また「下塗り」はしてみたい。