Sunday, September 29, 2019

最高の一戦、そして次の戦いへ。








本当に素晴らしい一戦だった。
Japan 19-12 Ireland (16:15 K.O. @エコパスタジアム)

紛れもなく世界トップクラスの強豪を相手に、真っ向から戦い抜いたジャパンへの称賛が溢れる中で、俺が付け加えられることは殆ど何もない。渾身のディフェンス。決して切れない集中力。決定的な瞬間にあって本当は生じてもおかしくない一抹の不安さえ圧倒的な自信と無心で凌駕してみせた圧巻のパフォーマンス。奇しくも一昨日書いたように、ジャイアント・キリングと言わせない戦いぶりだった。

プレーヤーで言えば、やはりマイケル・リーチ、そしてトンプソン・ルークだろう。マフィの負傷によって、おそらくは想定よりも大分早めの時間からグラウンドに立ったリーチ。直後のアタック・シークエンスの中で、右オープンへのワイド展開から敵陣22mあたりで生じたラックに、左斜め後方から凄まじい勢いで全身を打ち込むようなクリーンアウトを見た瞬間、リーチがこの試合で獅子となることを確信した。そして、トンプソン・ルークの仕事量とタフネス。リーチがインサイドからビハインドタックルで刺さった直後に、次のシェイプランナーをトンプソンが浴びせ倒すシーンが幾つあっただろうか。加えて、この日のジャパンを救った自陣深くでの相手ラインアウトのスティール。38歳にして驚きの、でもある意味では「相変わらずの」パフォーマンス。やはり引退撤回を考えた方がいいかもしれない。

ゲーム展開で言えば、この日のジャパンにとって最も大きかったのは、一度も連続失点をしなかったことだ。一度失点しても、3点ずつ返して喰らいつく。スコアで先行したのはようやく後半20分を迎える頃だったが、それまで常にワンプレーで逆転可能な圏内をキープしたことで、80分間の全体を通してハイ・プレッシャーを貫くことができた。こういう展開の時にキツいのは、「普通に戦えば勝利する」と思われている側だ。そして、ラスト20分を残して遂にスコアで優位に立ったジャパン。結果的に、これ以上ない絶妙のタイミング。まさに勝負の綾となった。とはいえ、ラスト20分で勝ち切るのも当然ながら相当に難しい。その意味でも、とにかくジャパンは純粋に素晴らしかった。

このアップセットで日本中、いや世界中を沸かせたジャパン。
歓喜の余韻も残る中ではあるが、俺としては、ここから先のことに思いを巡らせてみたい。
つまりサモア戦、そしてスコットランド戦のことを。

今回の勝利で、決勝トーナメント進出に向けて大きく前進したのは事実だ。メディアや世論を含めて、国内のモードも今日を境に大きく変わっていくだろう。ただ、ジェイミーからすれば、この先の2試合の舵取りは決して簡単ではなく、むしろ非常にデリケートな局面に入っていくと思う。アイルランドを撃破したとはいえ、スコットランドも、そしてサモアさえも、決して勝利が約束された相手ではないからだ。例えば、サモアに対するジャパンの通算対戦成績は4勝11敗。国内ファンの多くはその事実を知らないが、サモア代表の猛者たちはジャパンを「倒せない相手」だと思ったことは、おそらく一度もないはずだ。乗ってきた時のサモアは、恐ろしく強い。スコットランドは、言うまでもないだろう。前回の2015年大会で、「ブライトンの奇跡」を果たしても、なおジャパンの決勝トーナメント進出を阻んだ因縁の相手がスコットランドだ。当然ながら、彼らは既に具体的なイメージを描いているはずだ。最終戦でジャパンに勝利して、アイルランドと共に3チームが3勝1敗で並ぶ可能性をー。要するに、まだ一息つけるような状況では決してないのが、ジャパンの現在地だ。そういう中で、このアイルランド戦の勝利が生み出すモメンタムを、どのようにキープしていくかがポイントになってくる。心の中の小さな隙さえ見逃すことなく、モメンタムは崩さない。このバランス感が、ここからは最重要になってくる。

そしてもう一点が、特にベテラン勢のコンディショニングだ。例えば堀江やトンプソンのこの2試合を通じての消耗度は、やはり相応に高いと考えるべきだろう。FWでは姫野やラピース、BKでも中村、ラファエレの両CTBはフルタイムで身体を張り続けている。最終戦に山場のスコットランドを残す状況下で、最も疲労の高まる第3戦のサモア戦に、どういう布陣で来るのか。そして、そのメンバリングにジェイミーはどのような意味づけを与えるのか。ここが注目されるポイントになってくる。ただし、最も優先すべきは明らかにモメンタムだ。つまり、モメンタムを犠牲にするようなメンバー変更ならしない方がマシだというのが、俺の基本的な考え方だ。

ここからは、あくまで個人的な想像でしかないのだけれど、俺なりに考えてみたい。

例えば、堀江はおそらくスターターから動かさない。今のFWの安定感はリーチと堀江の2人に負う部分が極めて大きいからだ。でも、実はロシア戦の後半ラストに登場した坂手は、短時間ながら非常に安定した良いパフォーマンスを見せている。ゲーム展開にもよるが、サモア戦で坂手のプレータイムをどの程度取れるかは結構重要なポイントだと思う。トンプソンは、俺ならリザーブに一旦戻す。これも「トンプソンを休ませるため」ではなく、サモアと戦う上でヘル・ウヴェまたはヴィンピーの爆発力が求められているのだと、ポジティブなメッセージで統一したい。SHについては、俺としては茂野の出番が来るのかなと予想している。サモアを崩す上で最も狙うべきは彼らのディシプリンの部分であり、そのためには崩し切るスピード、クイックネスが肝になってくる。今のジャパンのSHの中で、最も「速さ」を武器にできるのは間違いなく茂野で、そして茂野のプレータイムを作ることは、結果的にスコットランド戦を見据えて戦略の幅を確立することにも繋がると思う。中村、ラファエレの両CTBは、このW杯を通じて休ませることはできない。この2人でなければ、「ジャパンのBK」になってこないだろう。

いずれにせよ、次のサモア戦に向けた準備はもう始まっている。
間違いなくジェイミーは、もう次のことしか考えていないはずだ。