Thursday, September 19, 2019

Rugby World Cup 2019 私的プレビュー








世界で3番目に大きく、世界で最も人間を興奮させるスポーツの祭典が、明日開幕します。
それも、この日本でー。
ラグビーW杯2019は、今日の時点で(ジャンルを問わず)人類が表現できる最高レベルのパフォーマンスの競演なので、人間という生物の奥底を知りたいのであれば、必ず見ることをお勧めします。そんな訳で、残り24時間を切ったオープニングに向けて、独断と偏見も織り交ぜながらプライベート・プレビューを皆様にお届けしようかなと。

そもそもジャパンとは ー
ラグビー日本代表は、1930年に初めて結成されて以来、90年近い歴史と伝統を持つチームです。"Brave Blossoms (勇敢なる桜の戦士) "という愛称でも親しまれていますが、大半のラグビーファンは「ジャパン」と呼んでいます。最新の世界ランキングは10位。31人のメンバーで構成されていて、うち15人が外国出身選手です。このことは後ほど触れます。

世界のラグビー、そして日本の立ち位置 ー
ラグビーで世界的に有名なのは、やはりAll Blacks (ABs)。ニュージーランド代表チームの愛称で、「人類最強」と言われています。このNZに加えて、オーストラリア(ワラビース)、前回2015年大会で日本が大金星を挙げた南アフリカ(スプリングボクス)を加えた南半球3ヶ国は、圧巻の強さを誇ります。更にラグビー発祥国でもあるイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドに大陸の王者フランスを加えた北半球5ヶ国も、依然として世界のラグビーをリードする存在として君臨しています。

ラグビー界ではこの8ヶ国が"Tier1"と呼ばれていて、日本を含む"Tier2 Nations"とは別格の存在という状況がずっと続いています。極論すれば、ラグビーユニオン創設以降の100年とは、Tier1の100年だったと言っても過言ではありません。

今回のW杯では、ジャパンの予選リーグ突破(ベスト8進出)に期待が集まっていますが、言い換えれば"Tier1 Era"への挑戦ということもできます。 メディアの煽りを横目に断言しますが、この戦いはそんなに甘くありません。それでも、予選リーグ同組のアイルランド(世界1位)スコットランド(7位)に真っ向勝負する実力をつけてきたのが、今のジャパンです。「ジャイアント・キリング」ではなく、がっぷり四つで。このマインドで世界と勝負することになります。

ラグビー憲章。その中でも"Respect"と、その象徴としての多様性 ー
World Rugby(国際ラグビーを統括する協会組織)は、ラグビーに携わる全ての人間が根幹に持つ5つの原則を「ラグビー憲章」として発表しています。非常にラグビーらしい部分で、私たちは「ただ勝利のためだけに」プレーする訳ではありません。また、この5原則は実際のプレーに関することに留まらず、競技全体を通底する価値観として、ナショナルレベルから草の根レベルまで、本当に多くのチームに幅広く共有されています。

この中の1つに「尊重 (Respect)」が挙げられていますが、これを象徴するのが、実は外国出身選手の存在です。ラグビーでは、国代表への選出基準として、①出生地が当該国である、②両親または祖父母の1人が当該国生まれ、③本人が3年以上続けて当該国に居住、という3つのうち1つを満たせば、国籍を問わず国代表としてのプレー資格を得られます。つまり、国籍主義ではないんです。同じ思いを持って戦う人間は、国籍を問わず仲間として認めるということです。

今回のジャパンには、上記の通り15人の外国出身選手がいますが、これは日本に限った話でもなく、海外の主要国においても一定数の外国出身選手が存在するのが実情です。ラグビーW杯の時期になると、デジャブのように外国出身選手のことが話題にされることに私自身は正直辟易していますが、「誰であれ、人間として対等に扱う」というフェアネスとオープンなスタンスが、他者への尊重へと繋がっていきます。ちなみに、これは有名な話ですが、ラグビー日本代表では国歌の練習も(外国出身選手の1人で、主将でもあるリーチ・マイケルの主導のもと)行っていますし、さざれ石の見学もしています。
全ては、心を1つにするために。

で、肝心の見どころは ー
全てです。一瞬たりとも見所でない瞬間はありません。

それでもあえて、1つ挙げるならば ー
特にテレビで見られる方は、選手の表情に注目してください。特に後半20分あたりですね。
上記の通り、予選リーグも強豪との対戦が続きます。このレベルで、楽に勝てるような試合など1つもありません。でも、本当に勝負できるチームは、苦しい時の表情だったり選手間のコミュニケーションに明らかな違いがあります。矛盾するような言い方ですが、予想された苦境やしんどい状況を"エンジョイ"できる人間の数が、ぎりぎりの勝負を左右します。

注目選手は、トンプソン・ルーク(LO)ですかね。トモさんの愛称で親しまれているNZ出身の38歳。今大会を最後に引退を表明していますが、開幕戦のロシア戦(9/20)もベンチ入りしています。
ここから先は、飲みながら話すと2時間コースになりますが、彼のプレーに幾度となく涙腺を緩ませたラグビーファンは相当数に上ります。Tier1レベルの強豪を相手に、実況アナウンサーが何度も「またもトンプソン!」なんて言っていたら、その試合には勝機があります。

ズバリ優勝予想は ー
ABsです。2011/2015と連覇を成し遂げ、今大会で史上初の3連覇を狙っています。
人類最強と目される彼らですが、実はつい最近、2009年11月から10年近く守ってきた世界ランキング1位の座を明け渡しています。盤石の布陣かというと、必ずしもそうとは言い切れません。こうした背景もあって、ジャーナリストの中にもABsの3連覇は難しいだろうという向きが少なくありません。そもそも連覇自体が極めて難しく、世界中の強豪から徹底的に分析・対策されるABsにとっては黄信号だろうと。

でも、私の見方は逆です。彼らは世界No.1から落ちたことで、不必要なプレッシャーから解放され、それでも決して枯れることのない程よいプライドと、圧倒的な危機感を手に入れた。ABsも人間なので、心で動き、心に動かされます。

単に誰かに「植えつけられた」危機感でなく、本当の崖っぷちに立つことになった世界最強集団が、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。今から楽しみでなりません。

まずは、明日の開幕戦からですね。