RWC 2019 Opening Match
Japan 30-10 Russia (19:45 K.O. @東京スタジアム)
世界を代表する20ヶ国が誇るワールドクラスのトップラガー達が、今日までの4年間で積み重ねてきた全てを懸けて臨む「人類最高の真剣勝負」が幕を開けた。
それが、ワールドカップ。東京で、ジャパンがこの戦いの幕を切って落とす日がこうして訪れたことを、まずは心から祝福し、そしてこの日のために全力を注いでいただいた関係者の方々に感謝したい。
これからの40日間は、間違いなく最高の時間になるはずだ。
さて、肝心のオープニング・ゲーム。少々遅くなったけれど、改めて振り返ってみたい。
キックオフ早々にミスから先制点を許して以降、特に前半は揺らめく流れを掴み切れない展開が終始続いたジャパン。それでも後半は、地力の差を見せてスコアを引き離し、ボーナスポイントも獲得することが出来た。終わってみれば、危なげない勝利だったと言っていいのではないかと思う。正直、不安定だった前半でさえ、foundationalな部分の厚みではジャパン優勢は明らかで、それはグラウンド上の選手達もおそらく同様の感覚だったはずだ。ただ、この試合はW杯のオープニング・マッチだった。当然ながら、この瞬間に4年分の闘志を凝縮させてくるのはジャパンだけではないということだ。
いずれにせよ、勝ち点5を確保しての勝利ということで、まずは好発進という受け止め方が全般的には多いかなと感じている。プレー精度には明らかに課題があったのも事実だけれど、ホーム開催ということもあり、国内のメディア/ファンは総じてポジティブに評価している印象だ。こういう部分も、ホームの利点の1つかなと思う。俺自身は、本音ではもう少し冷静に見ているが、ジャパンがこのゲームで勝ち取った「3つのプラス」について触れておきたい。
まずは、ウィリアム・トゥポウだ。前半早々のキャッチミスには、日本中のファンが天を仰いだことだろう。ただ、最もキツかったのは当然ながらトゥポウ自身だったはずだ。
俺が良かったと心から思っているのは、ジャパンの最初のトライで、松島へのラストパスを繋いだのがトゥポウだったことだ。あれでチームも、そしてトゥポウ自身もきっと救われた。
トゥポウのプレーは、その後もベストコンディションの時の安定を取り戻していたとは言えず、終始どこか揺らぎがあったのは事実だ。それでも彼は、決して潰れてはいけない選手だ。チームとしても、トゥポウにいかに早く切り替えさせるかを考えないといけない。なぜなら、W杯は1人のFBだけで戦い切れるような場所ではないからだ。山中が良くても、場合によっては松島でバックアップできるとしても、トゥポウの価値は変わらない。その意味で、俺はあのラストパスに光明を感じている。
2点目は、ベテランの存在。前半から続く流動的なゲーム展開を落ち着かせ、日本に流れを持ってきたのは、間違いなく2人のベテランだ。トンプソン・ルークと田中史朗。この2人が投入された時、TV画面越しにも「空気の変化」を感じた。プレーの面では、特に田中の投入が大きかったと思う。円熟味を増すゲームコントロールは本当に素晴らしく、1つひとつのプレーの判断も的確だった。
そして最後は、やはりリザーブメンバーの躍動だ。上記の2人以外にも、松田や山中は表情からして違っていた。松田はプレータイムこそ長くはなかったけれど、もしかするとこの試合を機にもう一皮剥けるのではないかと思わせるような迫力を見せていた。どちらかというとオールラウンダーとしての側面が評価されてきたタイプだが、この日の輝きは、強気かつキレのあるランで、これはジャパンにとっては間違いなく好材料だと思う。中島イシレリ、具智元の両PRも、ゲーム展開を左右する重要なシーンで、それも自陣22mライン付近のスクラムからの投入という痺れるタイミングだったけれど、見事に期待に応えたことで、ジャパンの戦いの幅をもう一段厚くすることになった。
ちなみに、松島のPlayer of the Matchは文句なしなのだけれど、俺としては、この日のジャパンを立て直したキーマンは姫野だったと思っている。強気全開。素晴らしいランとキャリーだった。アイツに渡せば必ずボールを前に運んでくれる。その安心感が、どのゲームにも必ずある悪い流れの時間帯では特に重要になってくる。それが自分に与えられたミッションなのだと明確に理解し、その通りの仕事を忠実にやり切ったのがこの日の姫野だった。実際にStatsを見ても姫野の存在感は明らかだ。まあ、もともと大舞台に強いタイプなのは分かっていたけれど、彼は遠くない将来に海外のプロリーグで戦う道を切り開くような気がしないでもない。
さて、次は現時点の世界No.1であるアイルランド。
端的に言えば、ジャパンは戦いやすい状態になったと思う。ロシア戦を見ても分かる通り、基本的に「挑戦者」の方が有利だ。アイルランド戦に関しては、メンタリティの観点でジャパンに守りの要素は一切不要だ。格下相手に充実のパフォーマンスで圧倒した際に、その自信が格上相手への修正を時として阻害することがあるけれど、今はその懸念もないだろう。ロシア戦のジャパンは、納得感のあるパフォーマンスを全然示していないし、そのことは選手自身も同様に考えているはずだ。
その上で、ここから何を修正するか。ハイボール処理に限らず、ミクロな修正箇所は多い。また、インターナショナルレベルの戦いでは対戦相手やレフリーの分析と、それに対するアジャストを相当やるはずだ。でも、結局のところ人間が1週間という短期間にフォーカスできるポイントは、2つか3つが限界だと思う。それで十分だし、今はそう戦うべきだ。
俺だったら、ブレイクダウンをもう一度立て直す。ロシア戦は明らかに集散が遅く、ユニットで戦えていない場面が多かった。特別なプレーよりも、当たり前のプレーをどこまで当たり前にできるか。色々あるにせよ、突き詰めてしまえば、アイルランド戦の勝機はこの点にかかってくるだろう。誰が出ても、すべきことは変わらない。
あとは、今日のアイルランドvsスコットランドを見てから考えよう。