Saturday, January 07, 2012

「構造」の醍醐味

佐々木融著『弱い日本の強い円 』(日経プレミアシリーズ)

本日読了。
噂に違わない良書だった。
その動きが非常に捉えづらい「為替」というものについて、極めて分かりやすい解説がされている。勿論、その説明が分かりやすいからといっても、現実の為替変動は多種多様な要因が複合的に絡み合った結果なので、将来の(特に短期的な)変動を予想するのはやはり困難だと思う。とてもじゃないが一般の社会人には無理な話で、そんなことに時間を割く必要もないような気がする。FXで勝負する暇があるならば、仕事で勝負した方が間違いなく利回りはいいだろう。まあ、利回りのために仕事している訳ではないけどね。
本書の価値は、もっと別のところにある。
要するに、為替というものを構造的に理解するための格好のガイドになる、ということだ。自分自身を含めて、金融というものを体系的に学んだ経験がない人間にとっては、本書を読むことでおそらく相当の気づきがあると思う。円高/円安というものの基本的な理解、昨今の国力という非常に曖昧模糊とした概念と為替との相関性は全くないという事実、日本の国益からみた為替の捉え方などは、目から鱗の面白さだ。

それにしても、マクロ/ミクロを問わず、経済学というのは非常に面白い学問だという感覚は、社会人になってから日々強まっている。「経済学は科学ではない」とか「経済学とは、経済学者に騙されないために学ぶものだ」といったように揶揄されることも多いのが経済学だけれど、経済学の醍醐味というのは、極めて論理的なその「推論プロセス」にこそあるような気がしていて、「それで結局、明日はどうなるのか」みたいなことは、ある意味では副次的なものと考えてしまってもいいような気がしている。
構造的な要因に基づく帰結は、ある程度予測できる。
でもそれ以上のことは、結局のところよく分からない。
それでいいんじゃないかなと。
明日が正確に分かってしまったら、そもそもつまらないのだから。