Saturday, January 07, 2012

スタイルとベーシック

永田洋光さん責任・編集の有料メールマガジン『ラグビー!ラグビー!』をいつも楽しく読んでいるのだけれど、本日刊行された永田さんの論考を読んで、少々考えてしまった。端的に言ってしまえば、大学選手権3連覇を狙う帝京大のスタイルについて、「そこに未来はない」ということでネガティブな評価をされているのだけれど、もう少し丁寧な思考が必要な気がして。

帝京大が大学選手権を初制覇した頃から変わらず採用しているのは、強力なFWを武器に、ポゼッションを最優先とするスタイルだ。ブレイクダウンの優位性を揺るぎないものとしながら、ボールキープ能力の高い外国人選手を核とした近場のアタックを継続して、リスクを可能な限り回避する戦略。BKはロングキックを主体としたエリアマネジメントを徹底すると共に、FWが動きやすい(FWのサポートを得やすい)形を意識した展開を基本軸に据えている。
そのスタイルに対して、「つまらない」 という評価は従来からある。
日本人が世界を相手に戦っていくことを考えた時に、 将来の日本ラグビーを背負う人材を輩出していくべき大学のトップチームのスタイルとして、「未来がない」という評価をしたくなる気持ちは、正直に言えば分からなくもない。ファンにとっても、よりボールがダイナミックに展開される方が面白いのは当然だ。
ただ、俺は思うんです。
スタイルと、それを裏づけるベーシックとは、独立して評価されるべきではないかと。

帝京大の本質的な強さは、そのスタイル自体ではなくて、そのスタイルを80分間に渡って完遂できる安定したベーシック・スキルにこそあると思う。他のチームが帝京大のスタイルを踏襲しようとしても、きっと出来ないだろう。あのスタイルは、彼らがブレイクダウンの局面で求められるスキルを徹底的に鍛え上げた結果であって、その努力と完成度については、冷静に評価されて良いはずだ。更に言えば、あのゲームマネジメントを成立させているのは単純なコンタクト・スキルのみではなくて、例えばコンタクトフィットネス、リザーブを含めた22人全員の戦術理解、グラウンドレベルでのコミュニケーション能力といった全てが揃っていることが重要だ。つまりそれは、本当の意味で「チーム」として機能しているということを意味していて、一朝一夕に出来ることでは決してない。
そのこと自体は、素直に素晴らしいと、俺は思います。

勿論、永田さんの論考の主旨は、もう少し先にあるのだと思っている。
何をもって「ベーシック」とするか。その定義というのは、結局のところチームの志向するスタイルに依拠している。帝京大がブレイクダウンに焦点を当てて、そのスキルを徹底的に磨き上げたのは、彼らのスタイルがそれを要求するものだったからだ。つまり、帝京大が「日本ラグビーの将来」というビジョンからスタイルを再定義すれば、当然ながら要求される「ベーシックの質」は変わってくることになる。
「4年間という限られた時間の中で、日本ラグビーの未来を託された優秀な選手達に叩き込むべきベーシックと経験は、今の帝京大のスタイルからは導き出せないだろう。 」
つまるところ、永田さんの主旨はそういうことかなと思っている。

それでも、やはり思わずにはいられない。「日本ラグビーのオリジナルを追求するにしても、結局のところブレイクダウンは避けて通れない」という現実を。
ブレイクダウンが多少劣勢だったとしても、展開力とスコアへの道筋を持ったチーム。この理想は、誰もが抱いていると思う。 でも、ブレイクダウンが「圧倒的に」劣勢だったら、まず勝てない。そして、インターナショナルの本気のブレイクダウンというのは、W杯のトンガ戦を思い返すまでもなく、「技術と知性を備えた野獣の世界」なのかなと。
帝京大のスタイルがつまらない、ということよりも、ブレイクダウンの劣勢を覆すだけのスタイルを有するチームが登場していないこと、あるいはスタイルを存分に発揮できないほどにブレイクダウンで水を開けられているチームが多いことの方が、本質的な問題かなと思います。