Monday, September 30, 2019

ただラグビーであれば








今、明らかにラグビーが熱くなっている。

初の日本開催となったラグビーW杯、そしてジャパンの躍進で、ラグビーに対する国内の関心が大きく高まっているのが日々感じられて、これまでラグビーを真剣に観たことがなかった多くの方々がジャパンに勇気づけられているこの現実を、心から嬉しく思っている。そして、ラグビーという競技の根幹を成す精神性、あるいはラグビー憲章が定める5つの原則を見事に体現するような数多くのエピソードが、ライブで、多くのファンの眼前で実際に表現され、それらがSNSを含むメディアを通じて世界中で共有されていくことを、1人のラグビー人として非常に誇らしく思う。ラグビーをやっていて、本当に良かったと。

でも、そんな今だからこそ、そろそろ書いておきたい。

俺はサッカーもアメフトも好きだと。
バスケットやバレーボールも、陸上や柔道も同じように好きだと。
ただ単純に、俺にとってラグビーは世界で最も面白く、そして最も尊いスポーツだと思うだけで、それぞれの競技にそれぞれ固有の魅力と尊さがあり、どの競技にあっても本物のアスリートは美しく、そういう諸々を俺はリスペクトしている。競技自体も、その競技を大切に思う人々のことも。

激しいコンタクトを厭わず、すぐに起き上がって戦うのがラグビー。
レフリーをリスペクトし、そのジャッジを根本の部分で信頼するからこそ、あらゆる状況下において規律をもって応じようと最大限に努めるのが、本物のラグビー。
ノーサイドの瞬間、敵味方を問わず全力を尽くした人間をお互いに讃え合うのが、ワールドクラスから草の根まで、洋の東西を問わず広く共有されている真のラグビー文化。

その通りだ。
でも、わざわざサッカーと比較して云々するのはうんざりだ。
俺としては、その手の話はもうあまり耳にしたくない。
何かと比較しなくても、ラグビーは純粋に尊いと思うからだ。

ただ、ラグビーがラグビーであれば、それでいいじゃないか。
リスペクトの精神が本物なのであれば、ラグビーというクローズドな世界のみに閉じることなく、ラグビーの外側を生きる人達や、ラグビー以外のあらゆる競技にも等しく同じ誠意をもって向き合っていくことこそ、ラグビーを愛する人々がすべきことじゃないか。

唯一、バスケットのフリースローでアウェイの相手にブーイングを浴びせる慣習だけは正直感心しない(というか、俺としては全く好きになれない)けれど、でもバスケットも大好きだ。Bリーグを一度でも見れば、きっと伝わるはずだ。

RWC 2019を通して、本物のリスペクトを。

Sunday, September 29, 2019

最高の一戦、そして次の戦いへ。








本当に素晴らしい一戦だった。
Japan 19-12 Ireland (16:15 K.O. @エコパスタジアム)

紛れもなく世界トップクラスの強豪を相手に、真っ向から戦い抜いたジャパンへの称賛が溢れる中で、俺が付け加えられることは殆ど何もない。渾身のディフェンス。決して切れない集中力。決定的な瞬間にあって本当は生じてもおかしくない一抹の不安さえ圧倒的な自信と無心で凌駕してみせた圧巻のパフォーマンス。奇しくも一昨日書いたように、ジャイアント・キリングと言わせない戦いぶりだった。

プレーヤーで言えば、やはりマイケル・リーチ、そしてトンプソン・ルークだろう。マフィの負傷によって、おそらくは想定よりも大分早めの時間からグラウンドに立ったリーチ。直後のアタック・シークエンスの中で、右オープンへのワイド展開から敵陣22mあたりで生じたラックに、左斜め後方から凄まじい勢いで全身を打ち込むようなクリーンアウトを見た瞬間、リーチがこの試合で獅子となることを確信した。そして、トンプソン・ルークの仕事量とタフネス。リーチがインサイドからビハインドタックルで刺さった直後に、次のシェイプランナーをトンプソンが浴びせ倒すシーンが幾つあっただろうか。加えて、この日のジャパンを救った自陣深くでの相手ラインアウトのスティール。38歳にして驚きの、でもある意味では「相変わらずの」パフォーマンス。やはり引退撤回を考えた方がいいかもしれない。

ゲーム展開で言えば、この日のジャパンにとって最も大きかったのは、一度も連続失点をしなかったことだ。一度失点しても、3点ずつ返して喰らいつく。スコアで先行したのはようやく後半20分を迎える頃だったが、それまで常にワンプレーで逆転可能な圏内をキープしたことで、80分間の全体を通してハイ・プレッシャーを貫くことができた。こういう展開の時にキツいのは、「普通に戦えば勝利する」と思われている側だ。そして、ラスト20分を残して遂にスコアで優位に立ったジャパン。結果的に、これ以上ない絶妙のタイミング。まさに勝負の綾となった。とはいえ、ラスト20分で勝ち切るのも当然ながら相当に難しい。その意味でも、とにかくジャパンは純粋に素晴らしかった。

このアップセットで日本中、いや世界中を沸かせたジャパン。
歓喜の余韻も残る中ではあるが、俺としては、ここから先のことに思いを巡らせてみたい。
つまりサモア戦、そしてスコットランド戦のことを。

今回の勝利で、決勝トーナメント進出に向けて大きく前進したのは事実だ。メディアや世論を含めて、国内のモードも今日を境に大きく変わっていくだろう。ただ、ジェイミーからすれば、この先の2試合の舵取りは決して簡単ではなく、むしろ非常にデリケートな局面に入っていくと思う。アイルランドを撃破したとはいえ、スコットランドも、そしてサモアさえも、決して勝利が約束された相手ではないからだ。例えば、サモアに対するジャパンの通算対戦成績は4勝11敗。国内ファンの多くはその事実を知らないが、サモア代表の猛者たちはジャパンを「倒せない相手」だと思ったことは、おそらく一度もないはずだ。乗ってきた時のサモアは、恐ろしく強い。スコットランドは、言うまでもないだろう。前回の2015年大会で、「ブライトンの奇跡」を果たしても、なおジャパンの決勝トーナメント進出を阻んだ因縁の相手がスコットランドだ。当然ながら、彼らは既に具体的なイメージを描いているはずだ。最終戦でジャパンに勝利して、アイルランドと共に3チームが3勝1敗で並ぶ可能性をー。要するに、まだ一息つけるような状況では決してないのが、ジャパンの現在地だ。そういう中で、このアイルランド戦の勝利が生み出すモメンタムを、どのようにキープしていくかがポイントになってくる。心の中の小さな隙さえ見逃すことなく、モメンタムは崩さない。このバランス感が、ここからは最重要になってくる。

そしてもう一点が、特にベテラン勢のコンディショニングだ。例えば堀江やトンプソンのこの2試合を通じての消耗度は、やはり相応に高いと考えるべきだろう。FWでは姫野やラピース、BKでも中村、ラファエレの両CTBはフルタイムで身体を張り続けている。最終戦に山場のスコットランドを残す状況下で、最も疲労の高まる第3戦のサモア戦に、どういう布陣で来るのか。そして、そのメンバリングにジェイミーはどのような意味づけを与えるのか。ここが注目されるポイントになってくる。ただし、最も優先すべきは明らかにモメンタムだ。つまり、モメンタムを犠牲にするようなメンバー変更ならしない方がマシだというのが、俺の基本的な考え方だ。

ここからは、あくまで個人的な想像でしかないのだけれど、俺なりに考えてみたい。

例えば、堀江はおそらくスターターから動かさない。今のFWの安定感はリーチと堀江の2人に負う部分が極めて大きいからだ。でも、実はロシア戦の後半ラストに登場した坂手は、短時間ながら非常に安定した良いパフォーマンスを見せている。ゲーム展開にもよるが、サモア戦で坂手のプレータイムをどの程度取れるかは結構重要なポイントだと思う。トンプソンは、俺ならリザーブに一旦戻す。これも「トンプソンを休ませるため」ではなく、サモアと戦う上でヘル・ウヴェまたはヴィンピーの爆発力が求められているのだと、ポジティブなメッセージで統一したい。SHについては、俺としては茂野の出番が来るのかなと予想している。サモアを崩す上で最も狙うべきは彼らのディシプリンの部分であり、そのためには崩し切るスピード、クイックネスが肝になってくる。今のジャパンのSHの中で、最も「速さ」を武器にできるのは間違いなく茂野で、そして茂野のプレータイムを作ることは、結果的にスコットランド戦を見据えて戦略の幅を確立することにも繋がると思う。中村、ラファエレの両CTBは、このW杯を通じて休ませることはできない。この2人でなければ、「ジャパンのBK」になってこないだろう。

いずれにせよ、次のサモア戦に向けた準備はもう始まっている。
間違いなくジェイミーは、もう次のことしか考えていないはずだ。

Friday, September 27, 2019

RWC 2019 日本vsアイルランド - 私的プレビュー








戦法に絶対はない。だが、絶対を信じない者は敗北する。
大西鐵之祐(元ラグビー日本代表監督、1916-1995)

ジャイアント・キリングとはもう言わせない。
でも、アップセットへの挑戦であることには変わりない。
明日はそういう戦いになります。9/28(土)日本vsアイルランド@エコパスタジアム(静岡)、運命のキックオフは16:15です。

今週時点のWorld Rugby RankingではABsに首位を譲ったものの、依然として世界No.2を誇るアイルランドの強さは本物です。ジャパンにとっては、今大会(RWC 2019)の運命を左右する最大の難所といっても過言ではありません。結果はもちろん重要。勝敗のみでなく、ボーナスポイントの有無も今後の展開に大きく影響してきます。でも、そういう諸々の前に、今にフォーカスするしかない。最終戦のスコットランド戦を考える前に、今この瞬間に全力を捧げて、全員が出し切るプロセス(All Out)を共有することでしか生まれない結束を勝ち取らない限り、明日を描くことはできない。W杯とは、そういう場所です。

何よりも最初に知っておきたい、アイルランドのこと ー

ところで、RWC 2019の参加チームはいくつかご存知ですか。20の「国・地域」です。20ヶ国ではない。その象徴たる存在が、実はアイルランドです。
アイルランド独立戦争(1919-1922)を経て連合王国(*)の一部として残った北部アルスター6州とアイルランド共和国とに分断され、その後も紛争の続いたアイルランドは、南北関係において極めて複雑な政治的背景を抱えています。でも、そうした中でラグビーは南北の垣根を超えた存在としてあり続けた歴史があります。独立戦争終結前に設立されていたIRFU(アイルランドラグビー協会)は、分断後の国境を無視し、統一チームとして戦い続ける道を選びます。

明日、ジャパンが戦うチームというのは、そういうチームです。アイルランド共和国代表ではなく、「1つのアイルランド」の誇りを胸に結束した男達です。試合前の"国歌"斉唱で歌われるのは、国歌ではなく”Ireland's Call"。「1つのアイルランド代表」のために作られた特別な歌です。静岡の地に"Ireland's Call"が響き渡るというそれだけで、もう感動を抑えられません。

で、肝心の見どころは ー
全てです。とにかく"Ireland's Call"から見てください。

ジャパンの勝機はどこに ー
アイルランドのような格上の強豪と戦う際には、幾つかの鉄則があります。
まずは、ロースコアの戦いに持ち込むことです。アイルランドは、初戦でスコットランドをほぼ完璧に封じ込めています。135本のタックルに対して、ミスタックルはわずかに8本。94%を超える驚異のタックル成功率です。つまり、簡単にはスコアできない。イメージとしては、20点のラインで争わない限り勝機はないと思います。では、どうするか。最も重要なのは、相手ボールの時間を減らすこと(Possession)、そして敵陣でプレーすること(Territory)の2つになってきます。この2つは全てのゲームで重要な指標ですが、格上を相手に主導権を取るのは容易ではありません。当たり前のことを当たり前にできるのが、本当に強いチームなんです。ジャパンはまず、ここに挑むことになります。

もう1つは、小さくてもいいのでスコアで先行すること。4年前の南ア(ブライトンの奇跡)とは違います。相手は開催国でもあるジャパンをきちんと警戒しています。小さくてもスコアでアドバンテージを取って、相手が追う展開に持っていくのが理想です。そして後半20分頃にまだリードを保っているか、少なくとも均衡状態を守れていれば、その時初めてアイルランドは背中に崖っぷちを見ることになります。

改めて、注目選手は ー
ウィリアム・トゥポウ、そしてトモさんことトンプソン・ルークの2人は大丈夫ですよね。この試合ではもう1人、FBに入った山中亮平を挙げておきたいです。前回の2015年W杯では、開幕直前に代表を外されるという悲運を経験するも、見事に這い上がってきた天才。いや、天才と言ってしまうと本当は失礼なのかもしれません。それだけの時間を積み上げてきた1人なのだと思います。
ダイナミックなランと、距離のあるキック。パスの能力も高いです。一方で、ロースコアの戦いとは"Aggressiveness"だけではないので、この部分をチームの最後尾からどのようにオーガナイズできるかが、明日の生命線になってきます。


また長くなりましたが、明日が待ち遠しくて仕方ないですね。

(*) グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国

Sunday, September 22, 2019

RWC開幕 - ジャパンの展望

RWC 2019 Opening Match
Japan 30-10 Russia (19:45 K.O. @東京スタジアム)

世界を代表する20ヶ国が誇るワールドクラスのトップラガー達が、今日までの4年間で積み重ねてきた全てを懸けて臨む「人類最高の真剣勝負」が幕を開けた。
それが、ワールドカップ。東京で、ジャパンがこの戦いの幕を切って落とす日がこうして訪れたことを、まずは心から祝福し、そしてこの日のために全力を注いでいただいた関係者の方々に感謝したい。
これからの40日間は、間違いなく最高の時間になるはずだ。

さて、肝心のオープニング・ゲーム。少々遅くなったけれど、改めて振り返ってみたい。
キックオフ早々にミスから先制点を許して以降、特に前半は揺らめく流れを掴み切れない展開が終始続いたジャパン。それでも後半は、地力の差を見せてスコアを引き離し、ボーナスポイントも獲得することが出来た。終わってみれば、危なげない勝利だったと言っていいのではないかと思う。正直、不安定だった前半でさえ、foundationalな部分の厚みではジャパン優勢は明らかで、それはグラウンド上の選手達もおそらく同様の感覚だったはずだ。ただ、この試合はW杯のオープニング・マッチだった。当然ながら、この瞬間に4年分の闘志を凝縮させてくるのはジャパンだけではないということだ。

いずれにせよ、勝ち点5を確保しての勝利ということで、まずは好発進という受け止め方が全般的には多いかなと感じている。プレー精度には明らかに課題があったのも事実だけれど、ホーム開催ということもあり、国内のメディア/ファンは総じてポジティブに評価している印象だ。こういう部分も、ホームの利点の1つかなと思う。俺自身は、本音ではもう少し冷静に見ているが、ジャパンがこのゲームで勝ち取った「3つのプラス」について触れておきたい。

まずは、ウィリアム・トゥポウだ。前半早々のキャッチミスには、日本中のファンが天を仰いだことだろう。ただ、最もキツかったのは当然ながらトゥポウ自身だったはずだ。
俺が良かったと心から思っているのは、ジャパンの最初のトライで、松島へのラストパスを繋いだのがトゥポウだったことだ。あれでチームも、そしてトゥポウ自身もきっと救われた。
トゥポウのプレーは、その後もベストコンディションの時の安定を取り戻していたとは言えず、終始どこか揺らぎがあったのは事実だ。それでも彼は、決して潰れてはいけない選手だ。チームとしても、トゥポウにいかに早く切り替えさせるかを考えないといけない。なぜなら、W杯は1人のFBだけで戦い切れるような場所ではないからだ。山中が良くても、場合によっては松島でバックアップできるとしても、トゥポウの価値は変わらない。その意味で、俺はあのラストパスに光明を感じている。

2点目は、ベテランの存在。前半から続く流動的なゲーム展開を落ち着かせ、日本に流れを持ってきたのは、間違いなく2人のベテランだ。トンプソン・ルークと田中史朗。この2人が投入された時、TV画面越しにも「空気の変化」を感じた。プレーの面では、特に田中の投入が大きかったと思う。円熟味を増すゲームコントロールは本当に素晴らしく、1つひとつのプレーの判断も的確だった。

そして最後は、やはりリザーブメンバーの躍動だ。上記の2人以外にも、松田や山中は表情からして違っていた。松田はプレータイムこそ長くはなかったけれど、もしかするとこの試合を機にもう一皮剥けるのではないかと思わせるような迫力を見せていた。どちらかというとオールラウンダーとしての側面が評価されてきたタイプだが、この日の輝きは、強気かつキレのあるランで、これはジャパンにとっては間違いなく好材料だと思う。中島イシレリ、具智元の両PRも、ゲーム展開を左右する重要なシーンで、それも自陣22mライン付近のスクラムからの投入という痺れるタイミングだったけれど、見事に期待に応えたことで、ジャパンの戦いの幅をもう一段厚くすることになった。

ちなみに、松島のPlayer of the Matchは文句なしなのだけれど、俺としては、この日のジャパンを立て直したキーマンは姫野だったと思っている。強気全開。素晴らしいランとキャリーだった。アイツに渡せば必ずボールを前に運んでくれる。その安心感が、どのゲームにも必ずある悪い流れの時間帯では特に重要になってくる。それが自分に与えられたミッションなのだと明確に理解し、その通りの仕事を忠実にやり切ったのがこの日の姫野だった。実際にStatsを見ても姫野の存在感は明らかだ。まあ、もともと大舞台に強いタイプなのは分かっていたけれど、彼は遠くない将来に海外のプロリーグで戦う道を切り開くような気がしないでもない。

さて、次は現時点の世界No.1であるアイルランド。
端的に言えば、ジャパンは戦いやすい状態になったと思う。ロシア戦を見ても分かる通り、基本的に「挑戦者」の方が有利だ。アイルランド戦に関しては、メンタリティの観点でジャパンに守りの要素は一切不要だ。格下相手に充実のパフォーマンスで圧倒した際に、その自信が格上相手への修正を時として阻害することがあるけれど、今はその懸念もないだろう。ロシア戦のジャパンは、納得感のあるパフォーマンスを全然示していないし、そのことは選手自身も同様に考えているはずだ。
その上で、ここから何を修正するか。ハイボール処理に限らず、ミクロな修正箇所は多い。また、インターナショナルレベルの戦いでは対戦相手やレフリーの分析と、それに対するアジャストを相当やるはずだ。でも、結局のところ人間が1週間という短期間にフォーカスできるポイントは、2つか3つが限界だと思う。それで十分だし、今はそう戦うべきだ。

俺だったら、ブレイクダウンをもう一度立て直す。ロシア戦は明らかに集散が遅く、ユニットで戦えていない場面が多かった。特別なプレーよりも、当たり前のプレーをどこまで当たり前にできるか。色々あるにせよ、突き詰めてしまえば、アイルランド戦の勝機はこの点にかかってくるだろう。誰が出ても、すべきことは変わらない。

あとは、今日のアイルランドvsスコットランドを見てから考えよう。

Thursday, September 19, 2019

Rugby World Cup 2019 私的プレビュー








世界で3番目に大きく、世界で最も人間を興奮させるスポーツの祭典が、明日開幕します。
それも、この日本でー。
ラグビーW杯2019は、今日の時点で(ジャンルを問わず)人類が表現できる最高レベルのパフォーマンスの競演なので、人間という生物の奥底を知りたいのであれば、必ず見ることをお勧めします。そんな訳で、残り24時間を切ったオープニングに向けて、独断と偏見も織り交ぜながらプライベート・プレビューを皆様にお届けしようかなと。

そもそもジャパンとは ー
ラグビー日本代表は、1930年に初めて結成されて以来、90年近い歴史と伝統を持つチームです。"Brave Blossoms (勇敢なる桜の戦士) "という愛称でも親しまれていますが、大半のラグビーファンは「ジャパン」と呼んでいます。最新の世界ランキングは10位。31人のメンバーで構成されていて、うち15人が外国出身選手です。このことは後ほど触れます。

世界のラグビー、そして日本の立ち位置 ー
ラグビーで世界的に有名なのは、やはりAll Blacks (ABs)。ニュージーランド代表チームの愛称で、「人類最強」と言われています。このNZに加えて、オーストラリア(ワラビース)、前回2015年大会で日本が大金星を挙げた南アフリカ(スプリングボクス)を加えた南半球3ヶ国は、圧巻の強さを誇ります。更にラグビー発祥国でもあるイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドに大陸の王者フランスを加えた北半球5ヶ国も、依然として世界のラグビーをリードする存在として君臨しています。

ラグビー界ではこの8ヶ国が"Tier1"と呼ばれていて、日本を含む"Tier2 Nations"とは別格の存在という状況がずっと続いています。極論すれば、ラグビーユニオン創設以降の100年とは、Tier1の100年だったと言っても過言ではありません。

今回のW杯では、ジャパンの予選リーグ突破(ベスト8進出)に期待が集まっていますが、言い換えれば"Tier1 Era"への挑戦ということもできます。 メディアの煽りを横目に断言しますが、この戦いはそんなに甘くありません。それでも、予選リーグ同組のアイルランド(世界1位)スコットランド(7位)に真っ向勝負する実力をつけてきたのが、今のジャパンです。「ジャイアント・キリング」ではなく、がっぷり四つで。このマインドで世界と勝負することになります。

ラグビー憲章。その中でも"Respect"と、その象徴としての多様性 ー
World Rugby(国際ラグビーを統括する協会組織)は、ラグビーに携わる全ての人間が根幹に持つ5つの原則を「ラグビー憲章」として発表しています。非常にラグビーらしい部分で、私たちは「ただ勝利のためだけに」プレーする訳ではありません。また、この5原則は実際のプレーに関することに留まらず、競技全体を通底する価値観として、ナショナルレベルから草の根レベルまで、本当に多くのチームに幅広く共有されています。

この中の1つに「尊重 (Respect)」が挙げられていますが、これを象徴するのが、実は外国出身選手の存在です。ラグビーでは、国代表への選出基準として、①出生地が当該国である、②両親または祖父母の1人が当該国生まれ、③本人が3年以上続けて当該国に居住、という3つのうち1つを満たせば、国籍を問わず国代表としてのプレー資格を得られます。つまり、国籍主義ではないんです。同じ思いを持って戦う人間は、国籍を問わず仲間として認めるということです。

今回のジャパンには、上記の通り15人の外国出身選手がいますが、これは日本に限った話でもなく、海外の主要国においても一定数の外国出身選手が存在するのが実情です。ラグビーW杯の時期になると、デジャブのように外国出身選手のことが話題にされることに私自身は正直辟易していますが、「誰であれ、人間として対等に扱う」というフェアネスとオープンなスタンスが、他者への尊重へと繋がっていきます。ちなみに、これは有名な話ですが、ラグビー日本代表では国歌の練習も(外国出身選手の1人で、主将でもあるリーチ・マイケルの主導のもと)行っていますし、さざれ石の見学もしています。
全ては、心を1つにするために。

で、肝心の見どころは ー
全てです。一瞬たりとも見所でない瞬間はありません。

それでもあえて、1つ挙げるならば ー
特にテレビで見られる方は、選手の表情に注目してください。特に後半20分あたりですね。
上記の通り、予選リーグも強豪との対戦が続きます。このレベルで、楽に勝てるような試合など1つもありません。でも、本当に勝負できるチームは、苦しい時の表情だったり選手間のコミュニケーションに明らかな違いがあります。矛盾するような言い方ですが、予想された苦境やしんどい状況を"エンジョイ"できる人間の数が、ぎりぎりの勝負を左右します。

注目選手は、トンプソン・ルーク(LO)ですかね。トモさんの愛称で親しまれているNZ出身の38歳。今大会を最後に引退を表明していますが、開幕戦のロシア戦(9/20)もベンチ入りしています。
ここから先は、飲みながら話すと2時間コースになりますが、彼のプレーに幾度となく涙腺を緩ませたラグビーファンは相当数に上ります。Tier1レベルの強豪を相手に、実況アナウンサーが何度も「またもトンプソン!」なんて言っていたら、その試合には勝機があります。

ズバリ優勝予想は ー
ABsです。2011/2015と連覇を成し遂げ、今大会で史上初の3連覇を狙っています。
人類最強と目される彼らですが、実はつい最近、2009年11月から10年近く守ってきた世界ランキング1位の座を明け渡しています。盤石の布陣かというと、必ずしもそうとは言い切れません。こうした背景もあって、ジャーナリストの中にもABsの3連覇は難しいだろうという向きが少なくありません。そもそも連覇自体が極めて難しく、世界中の強豪から徹底的に分析・対策されるABsにとっては黄信号だろうと。

でも、私の見方は逆です。彼らは世界No.1から落ちたことで、不必要なプレッシャーから解放され、それでも決して枯れることのない程よいプライドと、圧倒的な危機感を手に入れた。ABsも人間なので、心で動き、心に動かされます。

単に誰かに「植えつけられた」危機感でなく、本当の崖っぷちに立つことになった世界最強集団が、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。今から楽しみでなりません。

まずは、明日の開幕戦からですね。