Saturday, September 08, 2012

『おもかげ復元師』

おもかげ復元師 (一般書)
  • 作者: 笹原留似子
  • 出版社: ポプラ社
  • 発売日: 2012/8/7


本を読んで泣くことなんて、1年間でどれほどあるだろうか。
本では泣けないという人もいるかもしれない。

私は本書のページを繰り始めてすぐに、目蓋を湿らせてしまうことになった。
不覚にも、滅多にない偶然が重なって座ることができた朝7時台の田園都市線で。

でも、それでも読み進めるのを止めることができなかった。
通勤電車はミスチョイスだったと思いながら、心が釘付けになってしまった。

本書の著者である笹原留似子さんをご存知だろうか。
彼女の職業は、納棺師。最近では「復元納棺師」と名乗ることもあるそうだ。亡くなった人を棺へと納める時に、その人の顔を、出来る限り生前の状態に近づけるように復元させていく。遺体の状態も様々で、痛ましく悲惨な最期を遂げられたような場合だと、親族でさえ目を当てることさえできないようなこともある。ウジ虫がわいてしまい、腐臭が漂っているような酷い状態の遺体もある。それでも笹原さんは、心を尽くして、1人ひとりの遺体を、丁寧に復元させていく。生前の姿を教えてくれる写真さえなかったとしても、顔面に刻まれた皺を1本ずつ辿りながら、深い傷跡を綿花で埋めて、ファンデーションをして、髪を丁寧に洗い流して。

大切な人を失って、それでも生き続けなければならない遺族にとって、それが最期の面会なのだから。

おもかげを復元させてあげることで、生前のあの人と、最後にもう一度、向き合える。
そして遺された人達は、様々な形で閉じ込めていた思い、伝えられなかった思いを心から溢れさせ、涙を流して、故人との大切な時間を甦らせながら、「死」という辛い現実を少しずつ受け入れていく。
死に直面するのは誰しもが辛い。でも、おもかげに救われることだってある。いや、おもかげこそが、と言った方がいいかもしれない。笹原さんは「死に向き合う」ということの意味を誰よりも深く受け止めているからこそ、「おもかげ復元師」として携わることになった全ての瞬間に、自らの心の全てを注ぎ込む。

東日本大震災の傷跡も生々しい3月20日、彼女は陸前高田市にある遺体安置所に向かう。そこで彼女の目に飛び込んできたのは、3歳くらいの少女の遺体。小さな納体袋には「身元不明」の文字。既に死後変化が始まっていたその小さな遺体を前にして、彼女は「戻してあげたい」と心から願う。復元させてあげることはできる。技術も、そして道具もある。でも、叶わない。運命は残酷だ。身元不明の遺体に触れることは、法律で禁じられていたからだ。何もしてあげることができないまま、彼女は現場を後にせざるを得なかった。

その後、彼女は「復元ボランティア」として、数多くの遺族達のために、数多くの遺体を復元していく。
彼女自身よりも残された遺族の方がよく知っている、「生前のあの人の笑顔」を取り戻すために。

大切な人の死を受け入れるのは、とても辛く悲しいことだ。
でも、大切な人の死を受け入れていくことで、遺された人はきっと心に刻み込む。
あの人と過ごした最高の時間を。
決して忘れることのない素晴らしい思い出を。
そして、今も自分が生きているということが、紛れもなく奇跡だということを。


本書が多くの人に読まれることを願ってやまない。
切ない物語だけれど、読み終えた時に、きっと心のどこかを綺麗に洗い流してくれるはずだから。


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こちらも読んでみてほしい。笹原さんが現場で描かれた絵日記だ。
こうして復元された笑顔は、遺された人達が笑顔を取り戻すきっかけなのだ。

おもかげ復元師の震災絵日記 (一般書)
  • 作者: 笹原留似子
  • 出版社: ポプラ社
  • 発売日: 2012/8/7