Saturday, August 11, 2012

『理不尽に勝つ』


理不尽に勝つ




  • 作者: 平尾 誠二

  • 出版社: PHP研究所

  • 発売日: 2012/4/17


平尾誠二さんといえば、神戸製鋼の黄金時代を築いた名プレーヤー。ラグビーを知らない人にも広く知られているという意味でも、日本ラグビー界において稀有な存在だ。現役引退後は神戸製鋼GM、ジャパン監督として日本ラグビーを牽引しながら、一方ではクールな知性を武器に、多方面で幅広く活動されている。
平尾さんは著書も多くて、俺自身も何冊か読んでいるのだけれど、当然ながらラグビーを正面から扱ったものが多い。プレーヤーとしてのみならず、指導者としての豊富な経験をバックグラウンドとして、様々な切り口から多面的にラグビーが捉えられていて、興味深い著作が幾つかある。ただ、本書に関して言えば、ラグビーそのものというよりも、ラグビーをコアのエッセンスとした「平尾式人生訓」といった感じの方が近いかもしれない。その意味では、ラグビーと縁遠い人にも読みやすい1冊だ。

平尾さんというのは、「理」の人なのかなという気がしている。
例えば本書のタイトルにもなっている「理不尽」というものが立ち塞がってきた時に、「気合」や「根性」でとにかく乗り越えようとするのではなくて、「理不尽の先に、何があるのか」「今、理不尽に立ち向かうことの意義や意味は、どこにあるのか」といったように、そこに理不尽が存在することの「理」を突き詰めることで、自身をモティベートしていくタイプなのかもしれない。ただそれは、「気合」や「根性」ありきではないというだけで、決して「気合」や「根性」を否定するものではない。ここが重要だ。

平尾さんは言う。人間は生まれながらにして不公平な存在である以上、どこかに必ず理不尽が存在するのは当然だ。でも、その理不尽こそが人を育てるのだ、と。それが本書のキーメッセージであり、その基本的なスタンスのもとで、平尾さん自身がいかにして理不尽と向き合い、そして乗り越えてきたのかが綴られている。

でも、誤解を恐れずに想像するならば、おそらく平尾さんは、本書のために自身の経験を再構成されているようなところがあるのではないだろうか。つまり、「理不尽に勝つ」というメッセージが先にあって、その立ち位置を定めた上で、改めて自身の経歴を振り返っているような、そんな感じが多少しなくもない。そして俺としては、「理不尽に勝つ」というよりも、「理不尽と感じない」という方が実感に近かったのではないだろうかと、勝手ながら想像している。

理不尽だと明確に意識しながら毎日を過ごすのは、結構な苦行だと思う。例えば自分に後輩がいたとして、毎日が理不尽の連続でしかないと嘆いていたとする。俺だったら、「逃げてしまってもいいんじゃないか」と言ってあげたい。「理不尽の先にしか幸せはないのだから、理不尽から逃げるなよ」とは、正直ちょっと言いづらい。本当に理不尽だったら、逃げる選択肢を残しておいていいんじゃないか。「乗り越えられない自分は、やはりダメなのか」といったように、不必要に自分を追い込むこともないと思う。でも、場合によっては「それって、考え方を変えると理不尽でもないのかもしれないね」というケースはあるような気がして、これだとちょっと事情は変わってくる。

だからきっと、本当のコアメッセージは、「理不尽に勝つ」というよりも、「理不尽でなくしてしまう」ということなんじゃないか。平尾さん自身も、きっとそういう「理不尽の消化」をしてこられたのではないだろうか。
なんとなくだけれど、勝手ながらそういう想像をしています。