Sunday, July 01, 2012

『武器としての交渉思考』


武器としての交渉思考 (星海社新書)




  • 作者: 瀧本 哲史、undefined、瀧本 哲史のAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら

  • 出版社: 講談社

  • 発売日: 2012/6/26


瀧本哲史さんといえば、言わずと知れた時の人。もはやその著者名だけで「あ、釣られましたか」という視線を感じてしまうような存在になってきている。
その瀧本さんの新著。『僕は君たちに武器を配りたい』、『武器としての決断思考』に続く<武器>シリーズの3作目として刊行されたのは、交渉というものの考え方と基礎的なスキルを非常に分かりやすくまとめた1冊だ。

まず、最初に思ったこと。
本書は若手営業研修の基礎テキストとして良いかもしれない。
理由はシンプルで、瀧本さんの文章には「読ませる」ものがあるからだ。
交渉の基礎として紹介されているコンテンツには、誤解を恐れずに書いてしまうと、特別目新しいものがある訳ではない。入社当時に配布された『ハーバード流交渉術』(知的生きかた文庫)の焼き直しに近い部分もある。ミカンの実と皮を分け合うエピソードなんかは、こちらがオリジナルだろう。BATNA(バトナ)やアンカリングといった交渉の基本概念も、どちらかというと教科書的なものというのかな、要するに「基本中の基本」といったところだ。これは、瀧本さんの問題ではなくて、おそらく「交渉」という世界における基本には、さほどバリエーションがない、ということなのかもしれない。より戦術的なレベルでは、もう様々あるのだろうけれど。

ただ、それでもいい。やっぱり営業研修に最適かもしれない。
交渉力というものを考えた時に、BATNA(バトナ)を「知っている」だけでは意味がなく、その考え方を受け入れて、きちんと消化できていることの方が大切だ。そう考えた時に、瀧本さんのテキストは、たぶん(特に)若手にハマる。『ハーバード流交渉術』を読んでも、「ミカンの皮と実って、まあそんなケースないよね」と冷めてしまうような人に対しても、読ませるものがあると思うんだ。
様々なレイヤーで、日常的に行われている「交渉」という営みを、視野狭窄に陥ることなく、それでいて本質を分かりやすく整理して、かつ読者の心に沁みるように書く、というのはそう簡単なことじゃない。交渉のプロを自認する人達でさえ、自らの営みをこれほど伝わりやすい形で言語化できる人は極めて少ないだろう。

ちなみに、もうひとつ思ったことを。
本書の内容は、まさに俺の日常です。俺の仕事そのものと言っていい。
俺がすべきことで、かつ十分に出来ていないことが綴られています。
基本を読み返して得るものがない日なんて、きっと来ないんだよね。
10年間も営業してるのに、今でもロクに出来ないんだから(苦笑)。