ロバート・キャパ『ちょっとピンぼけ』(文春文庫)
中川さんに刺激されて、本日読了。ちょっと遅くなっちゃったけれど。
アンリ・カルティエ・ブレッソンと共にマグナムを結成した偉大なる報道写真家、ロバート・キャパによる手記。スペイン内戦、北アフリカ戦線、イタリア戦線を経て、ノルマンディー上陸作戦にも従軍。パリ解放の現場にもファインダー越しに立ち会った。最後は第一次インドシナ戦争の取材中、地雷に倒れて惜しくもこの世を去ってしまう。
タイトルにもなっている『ちょっとピンぼけ』というのは、ノルマンディー上陸作戦を撮った写真作品が『キャパの手の震えによるボケ』として発表されたことによるものだ。この時のフィルムを現像する際に、その凄さに興奮した技師が溶剤を加熱しすぎてしまい、貴重なフィルムが溶けてしまう。その結果、まともな写真として残っているものはわずか11枚しかないそうだ。本書で綴られている従軍の軌跡はもう凄まじすぎて、11枚しか作品として救われなかったというのは、あまりにも無慈悲な歴史の悪戯としか言いようがないのだけれど、もしかすると、11枚で良かったのかもしれない。1944年のノルマンディーにあったのは、世紀の大写真家でさえ「ちょっとピンぼけ」にならざるを得ない、あるいはピンぼけでしか表現されないものだったということなのかもね。
色々なことを感じる1冊だ。常識では読めない。
凄惨な戦争のど真ん中を渡り抜いてなお、キャパはセクシーだ。
そしてラストは、ちょっぴり切ない。いや、切ないというと、ちょっと語弊があるかもしれない。戦争という地獄の終焉は、切なくてはいけないはずだ。でも、やっぱり切ない。
女性の視点で読めば、もちろん異なる感想になるのだろうけれど。