Tuesday, March 20, 2012

『人を助けるすんごい仕組み』

西條剛央『人を助けるすんごい仕組み』(ダイヤモンド社)

前評判に違わず、素晴らしい1冊だった。
東日本大震災という未曾有の悲劇に対して、自分は何も出来ていないという思いが胸に去来している、おそらくは少なくないであろう数の人達(俺自身を含む)に、そして今の自分の仕事において、どことなく方向感の定まらない思いを持っている人にこそ、読んでみてもらいたい。

大学院の専任講師である西條さんは、仙台出身だった。
あの震災で叔父が行方不明となり、南三陸町に入ると、そこで目の当たりにした現場の惨状に衝撃を受ける。「何かしなければ」との思いから、被災地が必要としている物資を、行政を通さずに、必要としている人達へと直接届ける支援のあり方を構想し、その小さな一歩目が次第に大きなうねりとなっていく。
twitterやfacebookもフル活用して、糸井重里さんやGACKTさん、宮本亜門さんといった著名人とつながっていき、完全無償のボランティア支援に多くの賛同者が結集されていく。Amazonのウィッシュリストを活用して、必要な数の物資を、必要とする個々人に、ダイレクトに搬送する支援形態が確立され、家電製品や生活物資といった様々なものが、信じられないスピードとダイナミズムをもって、次々に被災地へと届けられていく。
本当に凄い。なんというのかな、「自己増殖的な」運動の拡張といった感じで、本書を読み進めているだけでも、ふと冒頭に立ち戻ると、「いつの間に、ここまで展開が加速していたのか」というのが分からなくなってくる程に、ダイナミズムがある。
思いだけでつながった、中心のない組織。いや、中心はあるのかもしれないけれど、構造であること自体に価値を置かない組織。そんなフレキシブルな形態から、数多くの被災地支援プロジェクトが沸き上がっていく。


その根本にあるのは、とてもシンプルな発想。
「構造構成主義」と西條さんは言うけれど、その極めて基本的なエッセンスだけでプロジェクトの根幹が形作られている。
それは、「状況」と「目的」に常に立ち返る、ということ。
何らかの「方法」ありきではなく、常に「状況」と「目的」から、機能する方法を導き出していく。既にどこかにある「方法」というのは、過去の経験をベースにしているけれど、今回の大震災のように、過去の経験では計れない未曾有の状況においては、経験ベースの「方法」が必ずしも機能しないのは必然だったのだ、と。

約300ページの中に、西條さん自身によるそうした「発想の種」と、その種を育てた行動の軌跡とが、山ほど詰まっている。そのスタンスには、きっと多くの人が強烈な刺激を受けると思う。そしてきっとそれは、「震災への向き合い方」ということだけに留まらない刺激となるはずだ。