Saturday, July 09, 2005

生きる

ひさしぶりに、素晴らしいTV番組を観た。
テレビ東京『たけしの誰でもピカソ』
~前衛アートのミューズ 奇跡の芸術を生む草間彌生~

昨年秋、東京国立近代美術館で開催された『草間彌生展 -永遠の現在』
草間彌生さんの作品を実際に目にしたのは、この時が初めてだった。
その時の感動は、今でもはっきり覚えているよ。本当に素晴らしかったんだ。

草間さんは、幼少の頃から強迫神経症に悩まされ、視界が水玉や網目模様に覆われる幻覚であったり、あるいは動植物が語りかけてくる幻聴の体験に苦しんだという。その頃の幻覚体験への執着を、草間さんは独自の前衛的芸術へと昇華させ、今日に至るまで一貫して、水玉と網目模様をモチーフにした作品を創り続けている。

京橋で観た「永遠の現在」―
そこには、草間彌生さんの初期の頃から今日までの作品群が網羅的に展示されており、水玉と網目模様が織り成す圧倒的なまでの美の世界が、そこで具現化されていた。ほとんどそれは、まったく別の新しい世界のような感覚。草間彌生というひとは、自身の前衛的芸術において、ひとつの美の形式を創り上げたというより、草間彌生という「世界」そのものを創造してしまったんだ。
おれにとっては、それくらいに圧倒的だった。

インスタレーションも素晴らしかった。
インスタレーションというのは、「場」そのものを総体として呈示する芸術的空間のこと。この展示会でいうと、鏡張りの暗闇の中に無数の電飾を吊るした「水上の蛍」という作品があるのだけれど、この作品が与えてくれた感動は今でも忘れない。信じられないほどに美しい空間。闇の中で自分と空間が同化していくような感覚。それは今までに触れたことのない世界で、今までに抱いたことのない感覚だったんだ。

それ以来、草間彌生さんはおれの最も好きな芸術家のひとりになった。

その草間さんが、今日の『誰でもピカソ』で取り上げられ、草間さん自身も出演されていたんだ。真っ赤な髪をして、赤に白の水玉の衣装を纏ってね。
草間さんのこれまでの人生が紹介され、草間さんの作品の数々と、草間作品の最大のテーマである「自己消滅」が取り上げられ、草間さん自身が、自分の言葉を語る。わずか1時間の番組だけれど、終始刺激的な内容だった。晩飯を食べながら観ていたのだけれど、おれの箸は止まってばかりだったよ。

草間さんを観て、思った。これこそが「生きる」ってことなんだ。
それに比べたら、おれなんか全然「生きてる」うちに入らないな、って。

水玉の幻覚から逃れる為には、草間さんには表現しかなかった。
だから草間さんは、どんな状況にあっても描き続けた。
それこそが彼女の世界だったし、そこにしか彼女の生きる世界は存在しなかった。
常に前衛的であり続けた。原体験としての水玉と網目模様に徹底的に執着し続けた。草間さんの言葉には、それは彼女にとって「生きること」そのものだったのだ、という響きがあった。その姿に、圧倒された。

番組の最後に、今回の出演の記念として、スタジオのどこかに草間さんに絵を描いてもらうことになった。草間さんは、出演者が登場する扉に、黒のペンで人間の横顔を描いたのだけれど、その絵も素晴らしかったよ。いともたやすい様子でペンを走らせ描いた3つの横顔。そして草間さんは、その傍にこんな言葉を添えたんだ。

「私は、人類最高の先駆者となる」
「無限の水玉は増殖し、永遠に栄える」

紛れもない天才だと思った。
今年は7月末から10月にかけて松本市美術館で『草間彌生 魂のおきどころ』と題された展示会があるみたい。お盆休みにでも行ってみようかと考えてます。

http://www.yayoi-kusama.jp/j/information/index.html