Monday, April 11, 2005

負け癖

おれは某金融機関様をお客様として営業をしているんだけど、最近改めて思ったことがある。
それは、負け癖がついてしまっている、ということ。

そのことに気づいたのは、土曜日に1ヶ月振りくらいでラグビーをしたのがきっかけ。
練習を終えて、大学時代の同期といっしょに帰路についてる時に、仕事の話になって、ふと思ったんだ。
東大ラグビー部の頃と、状況がそっくりじゃないかって。
おれたちが現役だった当時、東大ラグビー部は1部の最下位という位置にいて、上位校相手に1勝することを目標に日々練習してた。練習は真剣だったし、皆が一生懸命だったけれど、入部以来3年間にわたって、東大はいちども勝てなかった。もちろん、1部の上位校といえば、有力校から素質あるタレントが推薦で集まった強豪ばかりで、才能や経験の差は圧倒的なものがあったということは確かだけれど、それにしても、負け続けていた。
勝ちたかったと思う。誰だって、負け続けるのは嫌だ。
でも、勝てなかった。
その頃のおれは、そのチームで公式戦に出ることも出来ず、Bチームでプレーしていた。3年になってようやくゲームに出られるようになったけれど、それまではAチームは遠い存在だと思ってた。
なにが言いたいかというと、そういう状況の中で、おれは負け癖をつけてしまっていたんだ。

負け癖というのは、負けを正当化しようとすること。
負けたことに対して、もっともな理由をつけようとする。
持って生まれたもともとの運動能力が違う。花園でやってきたやつらとは経験値が圧倒的に違う。グランドだったり、ウェイトルームだったり、専属コーチだったり、そういった環境が違う。例えばそういったことに、負けの理由を求めようとする。

そのことを気づかせてくれたのは、おれが大学2年の頃から東大の指導にあたってくれたコーチの水上さん。
水上さんは、東大ラグビー部に深く根付いてしまっていた「負けの文化」を、根底から覆していってくれた。
水上さんは、教えてくれた。
才能がないことも、経験で劣ることも、すべて前提。理由じゃないはずだ、って。

才能がなくても、経験で圧倒的に劣っても、それでも本気で勝ちたいのなら、その差を埋める方法を徹底的につきつめるべきなんだ。環境が整備されていないのであれば、変えようと働きかけることは当然だけど、同時にその環境下で出来る最大限のことが何なのかを考え抜いて、それを実行するべきなんだ。それはひとことで言うなら、戦略を練り込む、ということだと思う。

例えば、ラグビーだったら。
身体の小さい人間は、コンタクトプレーでの消耗度が圧倒的に大きい。でも、ラグビーにおいてコンタクトプレーは避けて通れないので、小さくても確実に止められるタックルを徹底的に練習する。でも、それと同時に、そもそもコンタクトプレーの頻度を可能な限り少なくできないかと考えていく。ディフェンスでのコンタクトは、避けられない。もちろん、ディフェンス場面自体を減らすことが出来ればいいのだけれど、格下のチームが考える方向性じゃない。だからこそ、考える。アタックでのコンタクトをなるべく減らせないか。そのひとつが、キックを有効活用すること。もうひとつは、BKがロングゲインを狙うこと。
ハイパントという戦術の最大のメリットは、この点にこそあると思う。FWをまったくコンタクトさせずに前進させることが出来る。もちろん、キックをすることで、いちどボールをイーブンの状態にしてしまうデメリットはある。確かに、現代のラグビーではPossesion(ボールの保持)が最も優先されていて、ボールを持ち続ければ失点しない、という原則でどのチームも動いている。でも、コンタクトに劣るチームが同じ戦略を取っても、おそらく80分間にわたって、ポゼッションは維持できない。むしろ、ミスによるターンオーバーのリスクが増えるかもしれない。だから、ハイパント。その代わり、キックの落としどころ、チェイスのコース取り、落下地点でのタックルを徹底的に練習する。つまり、イーブンボールの獲得率を上げることで、リスクを減らしていく、ということ。
BKのロングゲイン、というのも同じ。難しいのは最初から分かってる。でも、特に1次攻撃でロングゲインできれば、FWに圧倒的に有利な状況を作れる。さらに、トライまでの継続回数を極力少なくすることで、ミスのリスクを最小に出来る。でも、問題はそこから先。どうやってロングゲインを狙うか。
ロングゲインのポイントは、BKのディフェンスラインを越えた後、FLの網に引っ掛からないこと。その為には、相手FLが届かないコースを走る必要がある。つまり、FLから遠いところを抜く。でも、スピードがない選手は、外で抜けない。カットインすれば、それだけFLに近づく。だから、そのぎりぎりのところを狙うことになる。それは、カットインした時のコースがちょうどまっすぐになるような、そんなカットイン。
これは、ひとりじゃできない。パスをする選手とのコンビネーションが絶対に必要になる。でも、試合で自分の隣にいる選手はいつも同じというわけじゃない。だからこそ、チームとして方針を決めて、皆がカットインの場面になった時に、同じ動きを想像できるように練習を組み立てていく。
こういうことが、つまりは戦略なんだと思う。
もちろん、戦略だけじゃ勝てない。それをグランドでパフォーマンスできなければ、意味がない。でも、戦略を本当の意味で考え抜き、それに自信を持って取り組むことができれば、それはきっとパフォーマンスにつながるはずだし、それは勝負におけるスタート地点だと思う。

水上さんは、東大の負けの歴史を、決して素質や経験のせいにしなかった。
東大が勝てなかったのは、それを前提にした戦略をつきつめ、そのプランを自信を持ってグランドで体現する覚悟がなかったからだ。そのことを、全身全霊を込めて、教えてくれた。

そして翻って、ビジネスの世界を考えた時に、おれが抱えている問題はこれとまったく同じなんだ。
なかなか売れない状況が続くなかで、チームの皆が言い訳を探す。
例えば、厳しい経済環境。あるいは、お客様とのカルチャーの違い。それ以外にも、周囲のメンバーの動きの悪さであったり、製品の価格競争力であったり、負けの正当化に使われるものは、そこらじゅうに転がっている。
でもさ、ここで立ち返らなきゃいけない。
おれは、本当に戦略をつきつめたのか、って。
依然として経済環境に厳しさがあることも、カルチャーの違いも、すべては前提。例えば自分の会社の製品よりもはるかに低価格で勝負してくるコンペがいるとする。それも、前提。大切なのは、そういう前提の中で、取りうる戦略はなにか、ってことなんだ。それを皆で話しあって、考え抜いて、自信を持てるまで練り込んで、行動に落とし込むべきなんだ。そんなこと、学生時代に水上さんが教えてくれていたはずなのに、今頃になって改めて思い知らされるんだね。

ほんと、まだまだです。