後輩のWTBと、北千住に舞台を観に行った。
寺山修司生誕70周年記念公演『血の起源』。
寺山修司のことは、実はほとんど知らない。文庫本のコーナーで『書を捨てよ、町へ出よう』であったり『ポケットに名言を』であったりを目にするたびに、いつも心の片隅がむずむずするけれど、結局今日まで読むことのないままで。こうやって、舞台から入ることになるとは、正直思ってなかった。後輩の彼女のつてで、S席が2,000円で取れるというラッキーな誘いがなければ、舞台の存在すら知らなかったからね。
パンフレットの紹介によると、この作品は、1973年にイランで3日間上演されたのみの幻の作品とのこと。舞台といっても台詞はほとんどなく、歌とダンスの組み合わせの中に、寺山修司のイメージとアフォリズムが埋め込まれたような作品。幻だからってことでもないけれど、寺山修司への入り口としては、悪くないんじゃないかと思う。
さて、実際に舞台を観てみて。
ひとことで感想をいうなら、とてもよかった。舞台というものを観ること自体、ほぼ初めてだったけれど、生で聴く歌声の素晴らしさや作品としての完成度の高さに、目を釘付けにされた。
作品全体としては、ストーリーと呼べるようなはっきりとしたプロットではなくて、寺山修司のイメージを、イメージとしてそのまま舞台化したような作品で、いろんな捉え方や感じ方が出来る内容だったと思う。そのイメージの力は、確かにとても強かったし、舞台の中で語られる台詞は、数は多くはないけれど、独特の引力のある言葉ばかりだった。
ただ、そういうことだけではなくて、おれがいいと思ったのは、演出。舞台装置や、ダンス、音楽、歌声、衣装、そういった諸々すべてを含んだ演出が、とてもよかった。
要するに、単純にすごかったんだよね。5人の女性が出てくるんだけど、その歌声は抜群だったし、主役の安寿ミラもとてもよかった。いや、もっと単純なところで、生で観たり、聴いたりすることが、やっぱり興奮を誘った。
小難しく考えなくても、イメージの意味するところがきちんと掴めなかったとしても、でもおもしろかったわけです。
また機をみて、観に行きたいね。
ちなみに、ひとつだけ残念だったこと。
舞台の開演後に、遅れてシアターに入ってくる人が本当に多かった。劇場の人が足下をライトで照らして席まで誘導するのだけれど、あれは勘弁してほしい。舞台を観て思ったのは、ふとした瞬間に舞台上の雰囲気や、状況が変わってしまうことがある、ということ。当然のことだけど、舞台上にいる役者はひとりではなくて、それぞれの役者が、それぞれの瞬間を演じている。だから、本当にちょっとした瞬間で、舞台上での立ち位置や、姿勢や、そういったものが変わっている。そういう瞬間を、遅れて来た人のふらふらした足取りに邪魔されるのは、ちょっと我慢ならない。本当に楽しみに観に来た人の為に、開演後は一切の入場を受け付けない、というのでいいじゃないかとおれは思うんだけど。