ふたつの映画を観た。
扱うテーマは異なるけれど、どちらも実話をもとにして作られた作品。
ひとつは、『ウェルカム・トゥ・サラエボ』。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の中にあって、孤児院に暮らすひとりの少女を救い出そうとしたジャーナリストの物語だ。
凄まじいばかりのリアル。ちょっとおれには書けない。日々の生活のすぐ隣に、いつも「死」が横たわっている世界。鳴り止むことのない銃弾の音。道端に捨てられた死体。絶望的なシニシズムの中で「14番目の地獄」といわれたサラエボの街。そうした現実を、出来る限りの誠実さをもって、出来る限りむき出しのままに切り取ろうとした、そんなカットが胸に突き刺さってくる。
観てよかった。観るべきだったと思う。
ヒューマニズムとかじゃない。きっと大切なのは、「14番目の地獄」といわれた世界は、まさに現実の世界そのものだった、ということだと思う。現実を知ることだけではなくて、それがまさに現実だということを知ること。それは、おれがこの映画に感じたいちばんのメッセージだ。
もうひとつは、今さらだけれど『タイタンズを忘れない』。
アメリカン・フットボールを通して人種差別を克服し、肌の色の違いを越えた友情と結束を、そして勝利を掴み取る物語だ。
人種差別という事実に対して、今のおれは語ることばを持っていないので、ここには書かない。
思ったのは、ひとつ。スポーツって、やっぱいいよね。
タイタンズの黒人ヘッドコーチであるブーンは、夜のスタジアムに照明をともして、そして言うんだ。
ここは、おれの聖域だ、って。
聖域というのは、侵すことの出来ない世界。だからグラウンドは、なににも侵されないんだ。差別にも、偏見にも、くだらないプライドにも侵されない。もちろん、実際のグラウンドには数え切れないほどの葛藤や、矛盾や、衝突や、そういったものが転がっている。でも、ずっとグラウンドにいると、「勝ちたい」という思いのもとに、そういう全てが収斂されていく。実力勝負。真剣勝負。グラウンドでのパフォーマンスが全てを決める世界。その嘘のなさは、きっと麻薬にも劣らないスポーツの魅力だ。
フットボールが世界を変えた、ってのは大げさな表現かもしれないけれど、人種差別の問題にまっすぐに向き合ったのがフットボールだった、というのは象徴的だと思う。だからひとは、いつまで経ってもスポーツをしてるのかもしれない。
ちなみに、余談をひとつだけ。
タイタンズが地区優勝を決めた日、黒人コーチのブーンが自宅に帰ると、近所の住民たちが窓から顔を出して、賞賛の言葉をかけ、拍手が巻き起こるのだけれど、このシーンを観た時に思った。もし日本でラグビーがこんなふうに愛されるスポーツになったら、って。
きっと、最高だと思う。