Wednesday, May 11, 2005

似て非なるもの

日本初のネット専業証券会社として松井証券を立ち上げた松井道夫社長。
ネット証券という全く新しい分野のパイオニアとなった松井社長は、社員にいつも言っているんだって。

給料をもらって働く人はいらない。働いたぶんの給料をもらう人になれ。

終身雇用と年功序列という(いわゆる)日本型システムの崩壊が広く言われている現在、決して目新しいことは語っていないかもしれないけれど、やっぱりどきっとする言葉だよね。
実はおれは、こういう考え方は、既に社会全体にかなり浸透しているものだと思っていた。でも実際に就職してみて、周りの人たちや同期のメンバーと話していくうちに、意外とそんなこともないんじゃないかと考え直すようになった。
象徴的だと思ったのは、定昇。おれが入社して1年、最初の定期昇給はたしか数千円だった。細かくいうと、個々人の年間評価によって違うのだけれど、新人の評価なんて大して差は生まれないし、概ねこのくらいだったと思う。
「1,000円じゃ1回の食事で終わっちゃうよな」
「なんだこれ、って感じだよね」
年度末にこの通達があった後、そんな声がかなり聞こえてきた。皆が皆ではないにしても、げんなりしてる同期はけっこう多かったような気がする。まあ、そもそも同期に友達がほとんどいないので、正確なことは言えないけれど。
その時、すごく意外に思ったんだ。みんな、定昇に期待してたんだ、って。
おれは定昇で給料を上げる、という感覚が本当にゼロだった(実は定昇という存在自体が、頭から消え去っていた)ので、すごくびっくりした。もちろん、職種によっても違うかもしれない。営業のように、個人の成果と評価を連動させやすい職種もあれば、そうではない職種もあり、どこに所属するかによって、基本的な考え方は変わってくると思う。おれは当時、営業ではなかったけれど、将来的には営業へ異動することが決まっていて、営業研修も入社以来ずっと受講していたので、職種によるバイアスはあるかもしれない。
でも、それにしても意外だった。
外資系企業っていっても、そんなものなんだなって。
まあでも、だからと言っておれに「自分の腕ひとつで給料を上げていく」という意識が定着していた、ってわけでは全然なくて、今日までの3年間を振り返ると、おれは単純に年収を上げることへの執着が弱いだけなのかなって思う。どんどん稼ぎたい、というふうになっていかないんだ。ただそれだけだと思う。そういう意味では、抵抗せずに搾取されていく、いちばんまずいタイプなのかもしれない。

ちょっと話は逸れてしまったけれど、もういちど松井さんの言葉に戻ってみる。
ここで言われている、ふたつのタイプの人間。それらは一見似ているけれど、全く違った存在だよね。ここがポイントだと思う。ひとつの態度に対して、意味づけを反転させてみることで、明らかになるものがきっとあるんだ。だって、ラグビーがまさにそうだったからね。勝利という目的の為に練習するのか、練習すること自体を目的にするのか。タックルされることを避ける為にパスをするのか、パスを活かす為に、あえてレイトタックルを受けるのか。自分のやりやすい動きを優先して、それに周りが反応することを期待するのか、あるいは周りがうまく動けるように、自分のプレーをコントロールするのか。ひとつひとつのプレー。日々の練習。それらの意味づけを反転させてみれば、ラグビーにおいて最も大切なことが、ちょっとずつ見えてきたりするんだ。

松井さんの言葉は、仕事の世界において最も大切なこと、ともすれば甘えて、忘れてしまいがちなことを、本当に明確に言い切っていると思う。ネット証券という、まさに新たな土俵をゼロから作り上げた松井さんにこれを言われると、やっぱりずっしりと響く。

こういう人が、パイオニアなんだね。