ひそかに読んでいる某先輩のブログに影響されたわけではないのだけれど、「準備する」ということについて、おれもちょっと考えてしまった。
おれの方は、ラグビーではなくて、ビジネスから始まるのだけれど。
例えば、自分が保険の営業だとする。
お客様からある商品説明の依頼を受けて、お時間を頂戴した場合を考えてみる。仮に終身の生命保険としようか。
そのとき、お客様先に伺う日までの時間を、どう使うか。
まず、自分が説明する商品の詳細をおさらいするだろう。その特徴、メリット、価格、契約までのプロセス、実績。例えばそういうものだよね。それから、きっと競合他社製品との比較をしておくだろう。数ある類似商品の中からあえて自社の商品を契約いただく為の、自社商品ならではの価値がほしいところだ。商品自体の競争力が弱ければ、営業のリレーションシップであったり、企業の健全性であったり、いろんなものを考えておくと思う。さらには、可能であればお客様の家族構成や、現在の保険の加入状況なんかを聞き出しておくのもいいかもしれない。配偶者・子供の有無によって、必要な保険金は当然変わってくるし、そうであれば、お客様にお届けすべきメッセージも当然変わってくるよね。別の保険に加入しているのであれば、乗り換えの事例やメリットが必要になってくるかもしれない。
お客様は、そうしたすべてを言ってくれない。
きっと一言、「おたくの保険のことを聞きたいのだけれど、説明してもらえませんか」って言うだけだ。
たった一言。でも、そこから考えられるあらゆるケースを想定し、あらゆる質問に対応できるようにしておく。こういうのは、営業としての「準備」なのだと思う。
でさ、ここでおれが思うのは、「準備するスキル」ということなんだ。
つまり、「準備」というのは、それだけである種のスキルなんじゃないか。
おれ自身が営業をしているのでよく分かるのだけれど、すごい営業というのは、例外なく「準備のスキル」が高いような気がする。事前の準備が、とても正確で、きちんとしていて、ポイントを押さえている。そういう準備がされていると、お客様から頂戴した貴重な10分や20分の価値は、まったく違うものになるよね。
ただ、実は「準備」は簡単じゃない。というのは、経験や知識がない人間には、そもそも準備するポイントが分からないんだ。
営業であれば、お客様のニーズに応えることが仕事であって、当然、お客様がどこに関心を寄せているかを知ることから、準備は始まる。お客様の関心は、どこにあるだろう。ここで必要なのは、まさに想像力だ。
それは、お客様を自分の中で勝手にイメージすることじゃない。そうではなくて、あらゆるケースを想定しておく、ということだ。先ほどの保険の例で言えば、「27歳男性」と聞いて、500万程度の終身だな、といった勝手な想像をするのではなくて、その男性が保険に興味を持った背景から、考えられるパターンをいくつも想像しておくんだ。既婚だろうか。子供もいるんだろうか。配偶者には収入があるのだろうか。金融に対する理解はどの程度だろうか。実は保険商品での運用を考えていたりしないだろうか。そういったことを、徹底的に考えておく、そんな想像力が必要になってくるのだと思う。
そして、こうした想像力には、副産物がある。それは、不安。あらゆるケースを想定した時に、自分が回答を持ち合わせていない部分があることに気づく。お客様から聞かれる可能性があることに対して、回答を持たずにお客様に対峙することは、不安だ。だから、不安を解消するべく、準備をすることになる。不安要素に対する即応性というのも、こうした想像力があってこそかもしれない。
以前に書いたけれど、想像力には「ベース」が必要だと、おれは思っている。
それは知識かもしれないし、経験かもしれない。情熱かもしれない。あるいは、圧倒的な能力なのかもしれない。なにをベースに置くのかは、きっと人それぞれだと思う。それでも、想像力のベースがなければ、不安を持てないだろうし、きっと「準備」ということの意味を認識できないと思う。準備はスキルだとおれが思うのは、まさにこの点においてなんだ。
そして、今のおれはというと、悔しいけれど、想像力のベースも、準備するスキルも、圧倒的に足りていないんだ。
長くなってしまったけれど、最後に。
おれ自身は、ラグビーにおける準備も同じじゃないかと思っています。
あらゆるケースを想定し、ゲームに臨む上での不安要素をひとつずつ潰していく。そして、そのプロセスを自信へと変えていく。それこそがラグビーにおける「準備」じゃないか。経験豊富な選手が「準備」の意味を知っているのは、自分自身を相対化し、相手との関係性の中で、想定されるケースを突き詰めるスキルに長けているからだと、おれはそう思ってます。