Sunday, June 12, 2005

The Gates

今朝、ずっと楽しみに待っていたものがようやく届いた。
Christo and Jeanne - Claude
"The Gates"
Central Park, New York City, 1979-2005

引退して暫くした頃、偶然見ていた「日曜美術館」で、クリストとジャンヌ=クロードのふたりが取り上げられていた。ちょうどその頃、NYのセントラル・パークで実現された"The Gates Project"の特集。それが、本当に感動的だったんだ。

このふたりは過去に、とても信じられないような規模のアート・プロジェクトを幾つも実現している。
例えば、"Surrounded Islands, Biscayne Bay, Miami, Florida, 1980-83"
http://www.christojeanneclaude.net/si.html
マイアミの孤島をピンクの布で覆ってしまった作品。当時の彼らは、Wrap(包み隠すこと)によってより鮮明な形で明らかにされるなにかを追求していて、これ以外にも多くのものを実際に覆い隠している。パリの橋であったり、ドイツの城であったり、その試みの向かう先は世界中に広がっていく。どれをとっても言えることだけれど、プロジェクトの規模と実行力、なによりその美しさには驚くばかりだ。
そしてふたりの試みは、Wrapだけに収束しない。
その中でもおれが特に好きなのは、"The Umbrellas, Japan - USA, 1984-91"
http://www.christojeanneclaude.net/um.html
時を同じくして、日本に青い傘を、そしてアメリカには黄色の傘を広げた作品。
なぜだか分からないけれど、心の奥底を震わせてくれる、そんな傘の世界。壮大で、どこか優しくて、なにより美しくて。まさにふたりの人間性が詰まったような作品だと思う。

その彼らが、20年以上の時を経て、2005年春にようやく実現させたプロジェクト。
それが、"The Gates, Central Park, New York City, 1979-2005"
http://www.christojeanneclaude.net/tg.html
今朝おれの家に届いたのは、こいつのフォト・ブックなんだ。

NYのセントラル・パーク一面に、オレンジの布を懸けたゲートを並べていく、このプロジェクト。1979年に初めて彼らがその構想を発表した時、NY市民は大反対したんだって。セントラル・パークを私物化している。NY市民にとって最も大切な憩いの場に勝手に手を加えないでくれ。そんな批判が巻き起こったそうだ。結局NY市の承認も下りなかったんだ。
でも、彼らはあきらめない。長い時間をかけて、自分たちのプロジェクトが受け入れられる為の活動を続けていく。公園の敷地内に、ゲートを刺し込む為の穴を開けることが問題とされれば、彼らは穴を開けずに済むような土台の設計に着手し、プロジェクトを煮詰めていく。安全性の問題を指摘されれば、ゲートの組み立て方法から洗い直し、ゲートが倒れないように細心の注意を払っていく。そうやって少しずつ、でも確実に前へと進んでいく。彼らは決してセントラル・パークを私物化したのではないと思う。そうではなくて、彼らは、NY市民にとってセントラル・パークがいかに大切な空間なのかを分かっていたんだろうね。
そして、今年の春についに実現された、オレンジのセントラル・パーク。
その美しさは、TVを通してさえ、まさに息を呑むほどだったよ。
悔しかった。本当に、この目で直に見たかった。オレンジのセントラル・パークを歩いてみたかった。わずか16日間の試みだったのだけれど、この時公園を歩いた多くの人の心のなかに、きっとなにかを残したはずだと思う。ふたりの芸術家の思いがこれ以上ないくらいに込められた、最高のプロジェクトだとおれは勝手に思ってます。

ちなみに、このふたりはプロジェクト資金を得る為に、一切のスポンサーを受けていない。スポンサーの介在によってプロジェクトの本質が失われることを懸念してのことだと思うけれど、なにより凄いのは、彼らが自ら描いたプロジェクトのデッサンを買ってもらうことによって、プロジェクト資金を調達していることだよね。このデッサンがまた秀逸なんだ。"The Gates"のデッサンなんかを見ると、このプロジェクトの魅力や美しさ、NY市民にとっての価値やそこに込められた思いを伝えるのに、これ以上のものはないんじゃないか、と思ってしまうような、それほどに素晴らしいデッサンだと思うよ。

だからおれは、ThinkPadの壁紙にしてます。