Sunday, June 19, 2005

四股を踏む

昨日のことだけれど、実は新宿のクラブに行ってきた。
別にクラブに行きたかった訳ではなくて、そこで開催されたイベントが目的なんだ。
現役力士ブロガー「普天王」のどすこい異業種交流会、ってやつね。

このイベントのことを知ったのは、先輩の祐造さんから届いた案内メールがきっかけ。祐造さんは、「チーム普天王」と呼ばれる普天王関のサポートメンバーの1人なんだ。チーム普天王のメンバー5名のバックグラウンドは様々で、それぞれが自分の専門分野を生かしたサポート活動をしているらしい。その中で祐造さんは、自らが開発したスポーツ映像分析ソフト"Power Analysis"を活用して、普天王関の取組の分析をしているんだ。(相変わらず、この人の行動力と実行力には驚かされてしまう。)

普天王関は、先の五月場所で11勝4敗の好成績を挙げて、敢闘賞を受賞している。今は前頭10枚目だけれど、来場所には大きく番付を上げてくるみたい。結果が全ての厳しい相撲の世界で、白星を重ねて這い上がり、こうして自分の地位を築いていく。そして三賞受賞。角界に挑みながら、最後まで入幕できずに引退していく力士がどれほどいるだろう。それを考えただけでも、本当にすごい結果を残していると思う。

そんな普天王関の「もっと多くの人に相撲を好きになってもらいたい」という思いから始まった、このイベント。いい機会だし、ある意味チャンスかなと思って。祐造さんのメールを読んだ瞬間に、ほとんど即決だった。それで、うちのパートナーと、昨年までのチームメイトを誘って、一緒に行ってきたんだ。


感想はというと、正直に言ってしまうと、ちょっと微妙な感じだった。
少なくとも、イメージしていたものではなかったかな。

とはいえ、おれ個人としては、それなりに楽しかったんだ。祐造さんが運営に携わっていることもあって、関わりのある人達が結構いたからね。
例えば、栄養士の生天目さん。おれが引退した後のことだけど、東大ラグビー部の栄養面のサポートをしてくださっていて、社会人ではNECグリーンロケッツの栄養士をしていたこともあるんだって。今は法政大学のラグビー部のサポートをしてる、って言ってた。ラグビーの世界に繋がりがとても広く、とても気さくで格好良い女性。たくさん話せて楽しかったです。松岡さん誘って、呑みにでも行きたいですね。
それから、タニくんが来てくれた。うちのパートナーの高校時代の後輩で、大学の山岳部では、見事に8,000m級を踏破してしまったすごい経験の持ち主。タニくんと会うのは1年振りくらいで、しかも昨日が2回目だったのだけれど、話していてすごく楽しかった。最近はほとんど山に行っていないようだけれど、ライターの仕事が充実しているみたいで、いい表情してたね。
他にも大学の後輩や、学生時代にお世話になったマネージャーさんも参加していて、久しぶりに会った人も多かった。そういう意味では良い機会だったし、悪くなかったんじゃないかと思う。

でも、イベント自体の微妙な感じというのは、やっぱり拭い難いものがあった。
それはたぶん、「異業種交流会」というところから来ていたような気がするんだ。
異業種交流というと聞こえはいいけれど、実際に会場で繰り広げられていたのは、「交流」とは異なる感じだった。もちろんそれが全てではないし、実際の交流も盛んに行われていたと思うけれど、違和感を感じるシーンが多かったのは事実だ。
交流には、パワーがいると思うんだ。交流するふたりの間を流れるものって、刺激だと思う。自分と違うフィールドにいるやつの生き方や、考え方や、人間的魅力や、試みや、そういったものが刺激となって、自分の心に流れ込んでくる。でも、相手が刺激を発してくれるのは、自分の中に相手を刺激させるなにかがある時だと思う。
パワーがなかったら、交流なんて出来ないんじゃないかな。
名刺交換をすることが交流じゃない。一方的に自分を宣伝して、ここぞとばかりにエゴの押し売りをするのは、「交流」を誤解しているんじゃないかと思う。
タニくんの紹介で知り合った編集者の紺野さんは、そのことをして「なるほどレベル」と表現していた。

とりあえず乾杯をする。名刺交換をして、話し始める。「今わたし、ある大学のサークルに所属していて、メンバーの皆とこんなプロジェクトをやっているんです。こんな理想を持って、皆で楽しく運営していて、だからあなたにも是非来てみてほしい。」
そして、答える。「なるほど」って。

誰とでも交流なんて出来ない。交流するには、パワーがいるんです。
詳しくは知らないけれど、「チーム普天王」のメンバーだって、普天王の心意気に惚れ込んだからこそ、それぞれが自分のエネルギーを注ぎ込んでサポート活動を行い、交流をしているのだと思う。イベントの出発点だって、きっとそこにあったはずだから。異業種交流会によって、交流の難しさを知る、というのも皮肉な話ではあるけどね。

でもね、嬉しかったこともあるんだ。
ひとつは、普天王関と握手をしたこと。名刺を渡して、手形の捺された色紙を貰った。スポーツの世界で輝きを発している人に出会うのは、とにかく単純に嬉しいよね。
そしてもうひとつは、四股を見たこと。イベントの最後に、ステージの上で普天王関が四股を踏んでみせたのだけれど、それが本当に良かった。どっしりとして、安定していて。本気で踏んだものではないかもしれないけれど、必ずしも相撲に興味があって参加している人達ばかりではなく、イベントにおける相撲の位置づけが曖昧になっていた中で、あの四股を目の当たりに出来たのは、純粋に嬉しかった。
2時間半のイベントの中で、最も感動したのが、あの四股だったよ。今の位置まで駆け上がるのに、何度四股を踏んできたんだろう。笑顔で踏んでくれた四股だけれど、その安定感の後ろにあるものを思った時に、「凄さ」を感じずにはいられない。

あざーす。
次の場所での活躍、期待しています。